抗酸化作用働く

マサイ族はまともな食事を1日1食しかとらない。

毎日、朝4時ごろ起きると、女性はまずひょうたんに乳を搾る。男性はそれを下げてサバンナに放牧に出る。午後3時ごろ牛のふんでできた家(ボーマ)に戻り、日没までにようやく食事をする。

1日分のカロリーを一気に取る食べ方はもちろん我々にはよくない。特に糖分を代謝してくれる膵臓(すいぞう)に負担がかかり、2型糖尿病を招く大きな原因となる。

しかし、カロリー摂取量が先進国の人より極端に少ないマサイ族の人たちには、1日1食が理にかなっている。少ないカロリーの食事を何回かに分けると、その都度、熱になって発散する。一度に食べれば体内に蓄積され、効果的なカロリー消費につながる。

同じタンザニアの首都ダルエスサラームでも1日1食。欧米の高脂肪・高カロリー食を満腹になるまで食べるので肥満が増え、過去10年ほどの間で倍増した。

伝統的な食べ方も、何をどう食べるかによって、また生活様式が大きく変化することで、毒にも薬にもなるようだ。

発酵乳(ヨーグルト)がマサイ族の食事の主で、健康の源になっていることは前回紹介した。1日3リットル以上飲んでも、コレステロール値は高くなく動脈硬化にもならない。どうしてだろうか。

彼らは、キブユと呼ぶひょうたんのなかに牛の乳を入れ、これを自然発酵させてヨーグルトにしている。いくつかキブユをサンプルとしてもらい日本に持ち帰って調べると意外なことがわかった。

ヨーグルトは植物性乳酸菌でできたものだった。

マサイ族が飼う牛はサバンナに自生する草を食べて大きくなる。乳にもおそらく草の成分がたくさん出てくるのだろう。最近、抗酸化作用をもつため注目されるようになったポリフェノールもたっぷり含まれているのには驚いた。

牛の乳にコレステロールが多くても塩を取らないので腸からの脂肪の吸収は少なく、ポリフェノールの抗酸化作用で動脈硬化にならずに済んでいると考えられる。

(武庫川女子大国際健康開発研究所長  家森 幸男)



2006.5.21 日本経済新聞