炭水化物ダイエットの効果は大きい、パン、麺、ご飯抜き?

炭水化物の大幅減量は薬剤の使用を減少させ、2型糖尿病を改善したり回復に向かわせたりすることが研究により示されている

炭水化物20g/日未満の食事にランダムに割り付けられた糖尿病肥満患者はほぼ全例とも体重が減少、HDLが改善し、糖尿病治療薬を減量または中止したと研究者らは述べている。一方、高い脱落率も注目されており、研究者らは脂肪と炭水化物を比較する試験を求めている

Shelley Wood

【1月9日、ノースカロライナ州ダーラム】低炭水化物法の有効性を示す「標準的(gold-standard)」臨床試験は不足しているものの、少なくとも一部の人にとって、超低炭水化物法は脂質プロファイルに有害な作用をすることなく、概ね糖尿病を回復に向かわせることを十分に示す知見が自らの患者で認められたとデューク大学の研究者は述べている[1]。Eric C Westman博士(デューク大学医療センター[Duke University Medical Center] 、ノースカロライナ州、ダーラム)らは、ごく最近発表した研究において、低炭水化物食にランダムに割り付けられた2型糖尿病の肥満患者は低血糖インデックス(GI)低カロリー食にランダムに割り付けられた同患者より血糖コントロールが改善する可能性が高く、なかには実際に糖尿病治療薬を中止した症例もあれば、糖尿病をヘモグロビンA1c(HbA1c)濃度によって定義する限りでは、糖尿病が回復に向かう症例もあることを報告している。

Westman博士によれば、この研究の斬新な点のひとつは、低炭水化物食群は通常の低炭水化物食の「導入期」または「強力な」炭水化物制限と一般に考えられる状態を維持している。アトキンス・ダイエット(この研究はAtkins Foundationの資金援助を受けている)では、導入期とは最初の2週間に炭水化物を20g未満に減少させることを意味するが、Westman博士らの研究では、6カ月という全研究期間を通じて炭水化物を20g未満に維持した。

「科学的には、低炭水化物食が血糖値を改善するということは、生理学的に見て言うまでもないことである」とWestman博士らはheartwireに述べている。「血糖を増加させるのは食事中の炭水化物であることは、生理学の基礎知識(Physiology 101)として教えられている。これについて議論の余地はない。この研究で問題としたのは、食事中の炭水化物含有量の変化が2型糖尿病に及ぼす影響の度合いである」

体重および血糖値の改善

研究者らは、合計84名の志願者(ほとんどが女性)を、炭水化物は20g/日未満に制限するがカロリーは制限しないケトジェニック食か、または低カロリー低GI食(500kcal/日のカロリー減を推奨)にランダムに割り付けた。両群とも、クリニックでの定期的なカウンセリングセッションに参加し、栄養サプリメントを提供され、少なくとも週3回の30分間の運動を推奨された。

6カ月時点で、両介入群ともに、HbA1c(同研究の主要評価項目)により測定した血糖コントロールに改善が認められたものの、患者の42%以上は同研究を脱落した。しかし、意外なことに、HbA1cの改善、体重減少、高密度リポ蛋白質(HDL)コレステロール濃度の改善は、低炭水化物食群の被験者の方が有意に大きかった。インスリンや経口薬などの糖尿病治療薬の必要度が低下したか、またはこうした薬剤の必要性がなくなった者は、低GI食群では被験者の62%であったのに対して、低炭水化物食群では被験者の95%を超え、両群間には統計的有意差が認められた。

代謝および脂質パラメータにおける変化


評価項目

GI食群

低炭水化物食群

群間の補正p

HbA1c (%)

-0.5

-1.5*

0.06

空腹時血糖値 (mg/dL)

-16.0*

-19.9*

有意差なし

胴囲 (インチ)

-4.6* (約11.7cm)

-5.3* (約13.5cm)

有意差なし

肥満指数(BMI (kg/m2)

-2.7

-3.9

有意差なし

体重 (kg)

-6.9

-11.1

0.01

低密度リポ蛋白質(LDL)コレステロール (mg/dL)

-2.8

+1.3

有意差なし

超低密度リポ蛋白質(VLDL)コレステロール (mg/dL)

-3.3*

-10.0*

有意差なし

高密度リポ蛋白質(HDL)コレステロール (mg/dL)

変化なし

+5.6*

<0.05

トリグリセリド (mg/dL)

-19.3

-67.5*

有意差なし

*群内におけるベースラインからの変化がp<0.05

脂質パラメータについては、低炭水化物食群ではHDL濃度が統計的に有意に改善したが、低GI食群ではHDL濃度に変化はみられず、ベースラインの差を補正した後に両群間に有意差が認められたのはHDL濃度の変化のみであった。両群とも、VLDLおよびトリグリセリドにはベースラインからの有意な改善が認められた。

通常は肉、チーズ、飽和脂肪がもっと多く含まれる食事に対する脂質パラメータの反応には大きな変動があるとWestman博士はheartwireに強調している。「糖尿病が回復している場合には、コレステロールの多少の増加を許容してよいと思う」とWestman博士は述べている。「糖尿病はリスク因子ではなく、リスクと同等なものである。我々はLDLの20ポイントの上昇や低下について話しているのではなく、糖尿病からの回復について話しているのだから、私には(わずかなコレステロール上昇の許容に対する)反対意見はまったく理解できない」

効果の機序

(この食事は低GIでもあるため、)低炭水化物食群における効果には、体重減少とGI低下の両方が寄与していると同著者らは指摘している。しかし、効果における統計的有意差は体重減少について補正後も維持されたことから、同研究において低炭水化物食の影響の方が大きかったのは、炭水化物の摂取量減少に起因する可能性が高い。

「‘低グリセミック’食の有効作用は、炭水化物の絶対量をさらに減少させることによって、あるいは含まれるカロリーの減少によって強化された可能性がある」と同研究者らは記している。

米国心臓協会(AHA)(長期にわたり食事中の脂肪制限を推奨)の栄養委員会のメンバーを務めるRobert Eckel博士(コロラド大学[University of Colorado]健康科学センター[Health Sciences Center]、デンバー)は、heartwireのために同研究に対するコメントを求められ、この研究では摂取した脂質の種類や高脱落率の理由に関する詳細といった情報が示されていないことを指摘している。

糖尿病研究者のDarren McGuire博士(サウスウエスタン大学(UT Southwestern)、テキサス州、ダラス)もコメントの中でWestman博士らの戦略を「興味深い考え」と評している。

「これはHbA1cの興味深い効果であるが、我々がごく最近気づかされたように、HbA1cへの介入は糖尿病管理の目的ではない。糖尿病管理の目的は微小血管合併症および大血管合併症を予防することである」とMcGuire博士はheartwireに話している。「HbA1cに好ましい作用をする介入の中には臨床的リスクを低減させるとみられるものもあるが、なかにはそうではないものや悪影響を及ぼす可能性のあるものもある。したがって、栄養組成がかなり極端なこの食事介入、およびブドウ糖評価指標を超える正味の代謝効果は、薬理学的介入と同様に、承認する前に、何らかの尺度で、長期間にわたり、できれば臨床的転帰の研究において評価する必要がある。最も重要な、臨床的転帰に対する効果、中期および長期安全性、ならびに長期忍容性の評価は全て、重要な問題として残っている」

Westman博士も同意見であり、自らが案をまとめ、デューク大学臨床研究所(Duke Clinical Research Institute)で準備が整った5000万ドルを要す研究があるが、脂肪に対する固定化した考え方および食物と農業を取り巻く政治を考えると、これに資金が提供されるか疑問であるとheartwireに話している。

「我々はグレーゾーンにおり、ここで行われるべき究極の研究はランダム化臨床試験である。私はこれに全面的に賛成だ」とWestman博士は述べている。しかし、当面のところ、Westman博士は自らの診療で低炭水化物戦略の使用を続けるつもりである。「多くの人たちが真実だと信じているにもかかわらず、科学的にコレステロールが上昇しないことが示されたこの食事中の脂肪を私は増やしてもよいのだろうか。そうすることで人々を薬から解放し、彼らの血糖コントロールを改善することができるのならば、答えはイエスである」とWestman博士は強く主張している。

しかし、Westman博士は、低炭水化物法は糖尿病肥満患者を援助するいくつかのアプローチのひとつに過ぎず、それは全ての人に適した方法でないことも強調している。「この研究に参加した大学教授の中には、私はこのようなものをイタリアで食べていた、私は好きだ、と述べた人もいる。したがって、人によっては、この食事を摂るのは容易なことである。しかし、我々の研究の対象とした平均的被験者にとっては、それは容易なことではなく、行動変容が求められる。我々がこの研究をはじめとする諸研究から学んだことは、これは激しい方法であるということであり、我々のクリニックでは診察せずに1カ月以上続けさせることはしない。これによって何らかの問題が生じた場合には、我々は2週間ごとに診察したいと思う。患者によっては週1回診察する」

重要なのは、糖尿病は「回復可能」ということであるとWestman博士は話を続ける。「こうした考え方は肥満症治療手術の文献で既に証明されているとWestman博士は指摘している。「これは非侵襲的アプローチであり、手術ほど急速でなく、激しくなく、危険でもないが、それでも食事と体重変化によって糖尿病は回復可能であることを本当に再確認している」

これ患者にとって費用がかからない方法でもあるとWestman博士は指摘している。「今日、このような経済情勢にあって、非薬理学的代替治療が必要とされていると思う」とWestman博士は述べている。「私は今日、1人の患者を幸せにした。というのは、私は1日で彼のインスリンを半分に減らしたからである。彼は月に200ドルをインスリンに費やしていた。患者はこうしたことをする医師を好むものだ」

Westman博士は利害の衝突はないことを報告している。

1.Westman EC, Yancy WS Jr, Mavropoulos JC, Marquart M, McDuffie JR. The effect of a low-carbohydrate, ketogenic diet versus a low-glycemic index diet on glycemic control in type 2 diabetes mellitus. Nutr Metab 2008; DOI:10.1186/1743-7075-5-36. Available at: http://www.nutritionandmetabolism.com/content/5/1/36. Abstract

Medscape Medical News 2009. (C) 2009 Medscape

 

2009.1.9 記事提供 Medscape