日本食文化の代表である発酵食品味噌は古くは大宝令(701年)にさかのぼり、以後1300年に及ぶ歴史がある。健康維持や生活習慣病予防への効果が期待されているが、一方、含有される食塩に対する懸念から、その健康効果は過小評価されてきたきらいがある。味噌には食塩以外の栄養素が多く、抗高血圧作用や抗動脈硬化作用、抗がん作用や抗加齢、消化管での栄養素の吸収促進と創傷治癒など、血管保護以外にも細胞・臓器の機能維持に有効であることが基礎的臨床的に実証されてきた。
味噌には平均13%の食塩が含まれ、味噌汁1杯で約1グラムの食塩摂取量となることから、一日当たりの食塩摂取量の約10%程度にあたる。ところで、味噌に含有される食塩は本当に血圧に悪影響を与えるの
であろうか。食塩感受性高血圧のモデルであるDahI食塩感受性ラットの実験から、味噌汁を長期に摂取したラットは、味噌汁に含まれるのと同程度の食塩のみを摂取したラットに比較して血圧は有意に低く、味噌には約30〜50%の減塩効果があることが分かった(図)。つまり、味噌に含まれる食塩以外の成分が、腎臓からの食塩排泄を促進することで減塩効果を発揮し、血圧上昇を防ぐことが明らかになった。さらに、食塩以外の成分は酸化ストレスを抑えることで、高血圧性心筋障害や賢臓障害も抑制する。
このような味噌による健康効果はヒトでも確認され、人間ドックでの横断的調査では、食塩では一日9グラムを超えると血圧は上昇する傾向があるのに対し、味噌汁摂取回数は
血圧値との間に一定の関係がない。味噌汁1週間の摂取では、若年健常女性では血圧や体液量に影響を与えない。さらに、疫学調査では味噌汁摂取回数が多いものほど乳がん発症頻度が低いこと、また、人間ドックでの成績でも味噌汁を一日一回以上飲んでいる家系では家族内がん発症頻度が低いことが示された。
味噌と食塩の誤った評価が科学的に訂正されるに及び、多岐にわたる味噌の効用が注目を浴びている。味噌の摂取法としては、味噌汁以外にも、たれや食材に加工する、ケーキや調味料、日本料理やフランス料理などでの隠し昧としての使用など工夫されてきた。味噌は一日8〜16グラムほどの摂取が推奨され、日本で開花した味噌文化のよさを世界に発信していくことが重要と考える。