平均寿命が延びた理由のひとつとして次のようなことが考えられている。米を主食とし、野菜や海藻、大豆及びその加工品などの植物性食品、これに加えて魚介類を摂取する伝統的な日本の食習慣が適度に欧米化され、栄養バランスがとれたからではないかということだ。

戦後5年を経た1950年(昭和25年)頃の日本人の肉類の摂取量は1日わずかに8.4グラム、油脂類はなんと2.6グラムに過ぎなかった。漬物、味噌汁でごはんを大量に食べるパターンだったからである。

その後、1964年に東京でオリンピックが開催された頃から食生活はじょじょに欧米化し、栄養状態が飛躍的に改善され、1985年頃から世界でもトップクラスの長寿国になった。当時の肉類の摂取量は、1日71.7グラム。ともに50年代に比べて7−8倍の増加で、現在も同じくらいの摂取量である。

かつての日本人に不足していた、たんぱく質と脂肪が十分に供給されるようになったことが、栄養のバランスを改善し、死亡率の上位を占めていた低栄養による脳卒中や結核、その他の感染症の死亡をぐんと減らし、長寿を導いたと思われる。

しかし一部の人からは、現代の日本人は肉や脂肪の摂りすぎだとよくいわれる。これは飽食時代に生まれた若い人達に言えることで、65歳以上で、ごはんをベースに野菜をしっかり摂るという伝統的日本の食習慣が定着した人達には当てはまらない。事実、最近の高齢者で肉や脂肪を好んで摂っている人は、若々しくて元気な人が多い。

(新宿医院院長  新居 裕久)
2006.4.8 日本経済新聞