心筋梗塞や動脈硬化・認知症
揚げ物より生/サプリは適量に

マグロやイワシなどの魚には、心臓病や認知症予防に効果があるとされるたくさんの栄養分が含まれる。日々の食事に魚料理を取り入れると健康効果は絶大だ。ただ、魚の種類や部位によっても含有量はまちまち。サプリメント(栄養補助食品)などで取りすぎてもよくない。正しい知識を身につけ、生活習慣病予防に役立てたい。

豊富な栄養分のなかでも最も力強い味方になるのがエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)という2種類の脂肪酸。血液をサラサラにして心筋梗塞(こうそく)や動脈硬化を防ぐ。EPAは、精製したものが高脂血症の治療薬として使用されるほどだ。

EPAはマグロやイワシ、アジ、サバなどの身に多い。DHAも同様で目玉の周辺にもたくさん含まれる。イワシなら毎日1−2匹食べれば十分な予防効果が期待できると言われる。

魚の脂肪酸が健康にいいと最初に注目されたのが1970年代。グリーンランドの狩猟民族イヌイットを対象とした調査結果の公表がきっかけになった。魚やアザラシを主食とするイヌイットは、血中EPA濃度が高く心臓病などで死亡する確率が極端に低かった。

国内でも今年1月、厚生労働省の研究班が約41,500人を対象とした11年間の調査結果を発表した。イワシやサンマを1日に2匹程度食べる人は、あまり魚を食べない人と比べ、心筋梗塞を発症するリスクが最大で6割近くも低かったという。

働きがよく似ているDHAとEPAだが、大きな違いはDHAが脳に入り込むことが可能な点だ。人間の脳には不純物が入り込むのを防ぐ仕組みがあるが、DHAはこれをくぐり抜け脳神経細胞の成長を促す働きをしているとされる。東京海洋大学の矢沢一良客員教授は「DHAを多く含む中トロの刺し身を毎日食べると、認知症の予防にもなるだろう」と話す。

「魚を食べると頭が良くなる」と言われるように、子どもがDHAを摂取すると賢くなるのではないかという説もある。ただ、ネズミを使った実験で学習能力や判断能力が向上したという報告がある程度だ。

こうした栄養分を効率よく取る調理法は、刺し身などで生で食べるのが一番。煮魚や焼き魚でも問題ない。ただ、てんぷらやフライの揚げ物にすると栄養分は失われやすい。

2つの脂肪酸以外にも、視力回復や肝機能向上につながるタウリン、貧血予防になる鉄分など、魚に多く含まれる栄養分は豊富だ。国際学院埼玉短期大学の鈴木たね子・客員教授は「ビタミンDは肉や野菜からほとんど取れない。魚を食べないと不足する」と話す。ビタミンDは骨を作るときに重要な働きをする。子供で不足すると骨の発育障害「くる病」の原因になることが知られる。

また、最近注目をされ始めたのがサケの切り身やイクラに多いアスタキサンチンという赤色色素だ。シミ・シワやがんの原因と言われる活性酸素の働きを抑制する抗酸化作用が非常に強い。抗加齢(アンチエイジング)ブームでアスタキサンチン入りの機能性食品や美容液も数多く登場した。

EPAやDHAなどもサプリメントの形で販売され、魚を食べなくても簡単に摂取できるようになった。ただ実はこうした栄養分だけを抽出したサプリメントでも同じ効果が期待できるかは疫学研究ではまだよくわかっていない。

大規模調査した厚労省研究班も「魚を食べた時の予防効果を検証しただけ。サプリメントで同じ結果になるかどうかは別問題」と話す。過剰摂取にも気をつけなければならない。

EPAやDHAは血液をサラサラにするが、植物油や動物脂肪に含まれる「リノール酸」とのバランスが重要だ。サプリメントなどで摂取が偏りすぎると、出血したときに血がとまらなくなってしまう恐れもある。

ウナギなど体が細長い魚に含まれるビタミンAは食べ過ぎに気をつけたい。過剰摂取すると「頭痛が起きたり皮膚がパラパラむけてきたりすることもある」(国際学院埼玉短期大学の鈴木客員教授)という。

ビタミンAの1日の許容上限摂取量は大人だと3ミリグラムで、ウナギの肝だとおよそ68グラムにあたる。妊娠中の女性が多く取りすぎると胎児の先天異常につながることも。ウナギの肝が好きな人は食べ過ぎに注意が必要だ。

また、メカジキのような大型魚、キンメダイのような深海魚は食物連鎖のためメチル水銀などの有害物質が多く含まれていることもある。妊婦の場合、胎児に悪影響を及ぼす可能性も指摘されている。 (本田幸久)


魚に含まれる主な栄養分と効用

効用
(とくに多い主な魚種)
カッコ内は生100g当たり含有量
EPA 血栓の防止など

・養殖ハマチ(1.54g)
・マイワシ(1.39g)
・本マグロ・トロ(1.29g)
・サバ(1.21g)

DHA 血栓の防止、脳神経細胞の成長 ・本マグロ・トロ(2.88g) 
・サバ(1.78g) 
・天然ブリ(1.78g) 
・サンマ(1.4g)
ビタミンD 骨の発育 ・マイワシ(53マイクログラム) 
・すじこ(47マイクログラム)
・いくら(44マイクログラム) 
・カワハギ(43マイクログラム)

ビタミンA

皮膚や目などの粘膜維持 ・アンコウ肝(8.3ミリグラム) 
・ウナギ(2.4ミリグラム)
鉄分 貧血の予防 ・ドジョウ(5.6ミリグラム) 
・ウルメイワシ(2.3ミリグラム)
タウリン 視力回復、肝機能向上 ・マグロ血あい肉(954ミリグラム)
・マイワシ(256ミリグラム)



2006.4.16 日本経済新聞