性風俗で働く女性に仕事をやめさせるのではなく、社会の偏見をなくし、困っていることの解決を手助けする―。そんなモットーで活動しているグループがある。背景には、女性が周囲や行政機関に仕事のことを打ち明けられず、公的支援が届きにくい構造的な問題がある。
6月上旬、東京・新宿の歌舞伎町にあるラブホテル。会社員や大学院生ら女性5人の前に、デリバリーヘルス(無店舗の派遣型性風俗)で以前働いていた20代の美沙(みさ)さん(仮名)が現れた。
一般社団法人「Grow As People」(GAP、埼玉県越谷市)などが、一般の女性に風俗嬢のことを知ってもらおうと開いた有料の「女子会」だ。
現役の頃と同じ水玉模様のワンピースを着た美沙さん。化粧は控えめで、派手さは一切ない。参加者が「なぜ風俗の仕事を始めたの」と尋ねると、「都合のよい時間に仕事を入れることができたから。お金に困って、というわけじゃない」と答えた。
「けばけばしいというイメージがあったけど、普通の女の子だった」。終了後、参加者の一人は意外そうに振り返った。
性風俗で働く女性は全国で30万人程度いるといわれる。シングルマザー、低学歴、奨学金の返済や生活費のために働く会社員や大学生...。立場はさまざまだ。
2010年に大阪で風俗店に勤めていた母親が幼児2人を自宅に放置し餓死させた事件が発生。GAPの角間惇一郎(かくま・じゅんいちろう)代表理事(31)は、問題意識を持ち、活動を始めた。「子どもを保育園に入れたいが、どうすればいいか」「他の仕事に就きたい」「夫から暴力を受けた」といった相談に乗り、役所や他の支援団体に話をつなぐ。
多くの女性が他人に仕事のことを知られたくないため、悩みを抱え込みがちだ。「風俗で働くに至った事情を何とかしようとか、『そんな仕事はやめなさい』と言うより、今困っていることに対処する必要がある」と角間さん。
40歳前後になると、客が付きづらくなる"40歳の壁"も立ちはだかる。他の仕事に就けず生活保護を受けるケースが少なくないため、GAPは30歳前後の人に対し、将来に備えるよう助言する活動にも力を入れる。
性感染症になりにくい接客マニュアル作成や、当事者の交流会、法律相談会などをしているのが、大阪と東京を拠点に15年前から活動する任意団体「SWASH」だ。
差別や偏見をなくすことを何より重要視しており、要友紀子(かなめ・ゆきこ)代表は「仕事のことを堂々と言えて、当事者の目線で相談を受けてもらえる場が必要だ」と指摘。保健師らを対象に、女性の相談に乗る際の手引書をつくり、研修会も開いている。
性を売り物にすることを否定しないため、女性団体から批判を受けることもあるが、要さんは「苦痛を和らげようという活動は女性の人権保護と矛盾しないはず」と理解を求めている。
※性風俗の現状
性風俗の業態は現在、デリバリーヘルスが主流だ。警察白書によると、2012年現在、デリヘルの営業届出数は約1万8千件で、ソープランド(約1200件)や店舗型ヘルス(約820件)を圧倒的に上回る。デリヘルの女性の大半は業者から雇用されているわけではなく、登録して働く個人事業主の扱いだ。
性労働に関する調査研究をしている神戸大の青山薫(あおやま・かおる)教授(社会学)は「働ける時間などに制約がある女性は他産業で就職が難しいが、風俗は間口が広い。抵抗感も以前より少なくなり、さまざまな人が働いている。他の仕事と区別する意味はなく、労働者としての権利を保障し、支援の輪を広げることが必要だ」と話している。
提供:共同通信社 2014年7月22日(火) 配信