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個別指導に疑義、委縮診療も招きかねず

- 新潟県医師会副会長・吉沢浩志氏に聞く◆Vol.1

同一日に個別指導から監査への移行例も

聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)

 先日の日本医師会の第125回臨時代議員会で、個別指導を苦に、開業医が自殺したと思われる事例を紹介したのが、新潟県医師会副会長の吉沢浩志氏(『46歳開業医が自殺、個別指導が原因か』を参照)。指導・監査をめぐっては、対象の選定方法から指導の仕方、監査後の処分のあり方まで、様々な問題が指摘されてきたが、依然、解決されていないことを物語るエピソードだった。吉沢氏に、新潟県における指導・監査の最近の動向、問題のほか、改めて今回の自殺事例についてお聞きした(2011年11月4日にインタビュー。計2回の連載)。

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――指導・監査の実施主体が、地方社会保険事務局から地方厚生局に変わり、何らかの変化はあったのでしょうか。

 指導・監査の実施方法が大きく変わったわけではありませんが、最近の特徴として、日本医師会の代議員会でも問題提起しましたが、「情報提供による指導」が明らかに増えており、この点が問題だと思います。新潟県では、2010年度は、診療所51件、病院9件、計60件に個別指導が行われ、うち「情報提供による指導」は、診療所9件、病院2件で計11件。2011年度はこれまでに診療所19件、病院3件、計22件で、そのうち、「情報提供による指導」は診療所6件、病院1件、計7件です。

 支払基金や国保連からの情報で個別指導につながる場合は、段階を踏んで行われます。レセプト審査に疑義があれば、まず医療機関に注意を喚起する。それでも改まらない場合には、個別指導につながることがあります。しかしながら、それ以外の情報提供による指導は、出所や信憑性が明らかではない中、指導に進んでいくような状況です。

 個別指導には、県医師会、郡市医師会、それぞれの役員が立ち会いますが、期日については調整があるものの、当日、会場に行くまで誰の指導か、どんな内容かは分からない。また選定理由も、「情報提供」によるものか、あるいは他の理由によるものかなどは、個別指導に立ち会って、その場で初めて知ることになります。

 ――「情報提供による指導」は、2010年度は11件、2011年度はこれまでに既に7件ということですが、それ以前はどの程度だったのでしょうか。

 ゼロではありませんでしたが、それほど目立った数ではありませんでした。

――「情報提供による指導」が増えている要因は。

 要因は分かりません。ただ、「たびたび同じ医療機関に関する情報提供があると、地方厚生局としても動かざるを得ない」ということを聞いたことがあります。しかし、我々は、誰からの、どんな内容の情報提供なのかなど、それ以上の詳細は知り得ない。この点は地方厚生局に問い合わせても、教えてはもらえません。当事者の医療機関も、情報源は知り得ない。

 本来なら、地方厚生局の「選定委員会」で、個別指導の対象に値するかどうかが審議されるはずですが、果たして選定基準に照らして公正に選ばれているのか。この選定委員会が形骸化しているという指摘は、他の地域などからも聞かれます。

――指導の実施に当たっては、公平性や透明性を担保すべきですが、必ずしもそうはなっていない。

 そうです。支払基金や国保連を通さず、地方厚生局に直接来る情報については、個別指導の前に、その医療機関がどんな医療をやっているかなどは調べていないのだと思います。

 また、個別指導はあくまで教育的なものであるべきだと、日医は言っていますが、現実には自主返還も頻繁に行われます。「自主返還だから、従わなくてもいい」という見方もありますが、実際には返還しなかったら、また呼び出される。さらに監査にもつながり得るのが現実です。

 実際に最近、個別指導を実施していたところ、中断し、続いて監査に移ったケースもありました。午前中に個別指導を実施していましたが、その同じ日の午後から監査に変わったのです。本来であれば、個別指導を行っても、改善が見られない場合は再指導をやり、それでも問題がある場合に初めて監査になる。これがルールだと思います。

――指導と監査は、異なるものであり、監査には行政処分が伴います。事前に通知せずに、監査を実施していいものなのか。

 その後、地方厚生局の担当官と面談する機会があり、問題提起したのですが、「それなりの手続きを踏んでやっているので、違法ではない」との回答でした。確かに、個別指導を中断し、再開する際に、「監査に切り替えます」と説明してますが、それで十分なのか。

――立ち会いの医師会の先生は、そこで何かを言えないものなのでしょうか。

 立ち会った先生は、「途中で監査に切り替わる手法は問題がある」とおっしゃったそうですが、現実には行われた。最近、個別指導に立ち会う先生方からは、「行政官の方が立場は強く、また以前と比べると、立ち会いの先生が発言を許される機会も減っている」と聞きます。

――指導から監査に移行したケースは、どのような問題があったのでしょうか。解釈の違いによる算定ミスなのか、それとも何らかの悪質さが伴うケースだったのか。

 医療機関側で誤った解釈をしており、本来は算定要件を満たしていないケースで、高い点数で算定していたそうです。もう少しランクの低い点数か、あるいは全く算定できない点数を、患者に一律に算定していた。しかし、医療機関側も、解釈が違っていたとか、弁解はあったと思います。

――今のところ、監査に変わったのは1件のみ。

 そうですが、地方厚生局は、「個別指導の日における監査への切り替えは、法的に問題ない」としているのですから、また起こり得ます。

――地方厚生局の担当官は何を目指しているのか。

 分かりません。担当官が挨拶に来られても、「医師会とは協調して行う」とおっしゃるだけです。しかし、様々な状況を鑑みると、個別指導をめぐる状況は厳しくなっているのではないかと、推察をせざるを得ないと考えています。

シバリというか、脅しというか……。社会保険診療のルールは確かにありますが、締め付けが厳しいと委縮医療につながりかねない。それが一番、懸念されるところです。医師会としては、地域に貢献する先生方の医療が、そうしたことで妨げられることがないよう支援していきたいわけです。突然、個別指導から監査に変わる状況があっては、ビクビクしながら診療しなければならなくなる。

――指導から、再指導、というステップを踏むなら分かると。

 「あ、ここは解釈が違っていたのか」と分かれば、直す。その機会を確保することは必要です。

2011年11月9日 提供:m3.com