予防歯科についての記事
下記は、1998年3月18日付の朝日新聞の社説である。
ここでは「歯科医療革命」、すなわち虫歯や歯槽膿漏の苦痛から人々を救い、先進国での総合戦略について記述されている。
オランダや北欧、ニュージーランド、英国では1975年からの15年間でこどもの虫歯が5分の1に減少したのに対して、日本の子供の虫歯は先進諸国の約4倍に上り、お年寄りに至っては入れ歯の苦労が耐えないというもの。
この現状を踏まえて、「歯の健康をまもり育てる国際レベルの診療」を目指して、開業医、大学関係者、歯科衛生士らの約1000人が日本ヘルスケア歯科研究会を発足し、その趣意書には以下のように記されている。
「人々が、一生自分の歯でおいしく食べられるように、口元に尊厳に満ちた微笑みと若さを保てるように、知識や技術を共有し、普及しよう」
これからの長寿社会では、年を取っても自分の歯でものが食べられるかどうかで、人生の味わいが大きく左右されるというもの。
歯の健康に総合戦略を
虫歯やシソーノーローの苦痛から人々を救い、歯医者さんの仕事への誇りを高めて、しかも医療費を減らすーそんな「歯科医療革命」が先進各国で始まったのは20年ほど前のことだった。
オランダや北欧、ニュージーランド、英国などでは1975年からの15年間で、こどもの虫歯が五分の一から八分の一に減った。「入れ歯が必要な身になることは、歯科医、患者、そして国家の怠慢が招いた失敗」とかんがえられるようになった。日本はこの流れから取り残された。虫歯として処置された子供の歯は、先進国諸国の約4倍にものぼる。お年寄りは入れ歯ゆえの苦労がたえない。
「この現象は恥ずかしい。歯の健康をまもり育てる国際レベルの診療を目指さなくては」という開業医や大学関係者、歯科衛生士約千人が、日本ヘルスケア歯科研究会を発足させた。趣意書にはこうある。
「人々が、一生自分の歯でおいしく食べられるように、口元に尊厳に満ちた微笑と若さを保てるように、知識や技術を共有し、普及しよう」
設立総会には、沖縄や北海道など全国から約800人が駆けつけ、改革にかける熱意と広がりを感じさせた。
虫歯も、一般に歯槽膿漏と呼ばれる歯周炎も、実は感染症だ。
湿って温かく栄養豊富な人間の口の中は、細菌のすみやすさでは指折りの場所である。だから、大きく削って、金属をつめたりかぶせたりする従来の治療では、虫歯は再発を繰り返し、歯の喪失につながる。歯周炎もおこしやすくなる。
そこで研究会は、先進諸国で成功した総合的な戦略を日本でも展開すべきだと考えている。その戦略とは、
▽ 幼い時から正しい知識と習慣が身につくように、保育園、幼稚園、小、中学校の先生に徹底した虫歯予防教育ををする。
▽ フッ素入り歯磨き剤などを普及する
▽ とがった器具で歯の溝を探る検診は虫歯を促進する危険があるのでやめる。
▽ 薬には唾液を減らすものがあり、唾液が減ると虫歯になる危険が増すので、薬の注意書きはきちんと記す
▽ かかりつけの歯科医が、虫歯や歯周病を起こす細菌の質や量を調べ、発病を防ぐ治療をする。
▽ 歯科衛生士が、本人には取れない歯垢や歯並びにあった歯の磨き方を指導する。
いずれも、口の中を虫歯や歯周炎が起こりにくい環境にするための方策だ。それでも虫歯ができたら、歯の構造を壊さぬよう感染した部分だけ削ってつめる。
一方、日本は予防を軽視し、「見つけて削ってつめる」という治療中心の歯科医療を続けてきた。厚生省は「80歳まで長生きして20本以上の歯を残して楽しく食事を」という「8020運動」を9年前に始めたものの、まだ「8005」にとどまっている。
「20年の遅れ」を取り戻すためには、思い切った方向転換が必要だ。
そこで行政や学界に提案したい。
厚生省は、削ったりつめたりしないと収入が上がらない報酬の仕組みを改める。
文部省は、諸外国なみの歯科保険教育を様々な授業の中に組みこむ。
歯科大学は、歯の健康をまもり育てるという原点に立った歯科医養成をする。
長命社会では、としをとっても自分の歯でものを食べられるかどうかで、人生の味わいが大きく左右されるのだから。
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