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糖尿病と歯周病の負のスパイラル

糖尿病と歯周病の負のスパイラル
東京医科歯科大学 2013年研修医セミナー
第22週「歯周病と全身の健康との関わり」

逆に重度の歯周病は、糖尿病発症リスクを増加させるとも言われている。
糖尿病と歯周病の関係はどのようなものなのか。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野教授の和泉雄一氏が解説する。
まとめ:酒井夏子(m3.com編集部)

■中等症から重症に必要な歯周外科治療

講師は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野教授の和泉雄一氏
次は歯周病の治療です。中等度から重度の患者さんには一歩進んで、歯周外科治療が必要になります。

歯周外科治療_フラップ手術

これはフラップ手術と言い、局所麻酔で歯肉を剥離し、歯槽骨と歯根を直接見える状態にします。歯根面の深くに付着したプラーク細菌を徹底的に取っていくわけです。そして十分デブライドメントを行った後、また歯肉を戻します。1年がかりですが、健康な歯周組織が確保できました。このように治療を進めます。

次の症例は、歯周治療前には歯肉に強い炎症があり、不良補綴物や歯肉縁下に広がるう蝕が認められました。歯周治療後には歯肉の炎症や不良補綴物、う蝕が改善され、健康な口腔内に戻っています。

歯周治療の効果

■歯周病治療は炎症を軽減する

歯周治療をするということは、口腔内の強い炎症を取ることになります。それでは、ここで歯周病、要は強い炎症とサイトカインの関連を見てみましょう。歯周病が進行している部位では、歯肉溝滲出液といって歯と歯茎の間から出てくる組織液が出てきます。その中ではIL-6やIL-8、TNF-α、IL-1β、PGE2の濃度や総量が上昇しているという報告があります。

歯周病患者では血清中のサイトカイン濃度も上昇していました。ここで先程の炎症を取る歯周治療を行うと、血清中のサイトカイン濃度が減少したと報告があります。このように歯周病を治療することは、炎症を軽減する。すなわちサイトカインの減少につながるわけです。

歯周病とサイトカインの関連

一方、全身疾患のない歯周炎患者、要するに口腔内だけに炎症がある場合、健常者と比較して血清中のC反応性たんぱくが上昇しているという報告があります。もちろん体の中に炎症があればCRPは容易に上昇してしまいますが、歯周治療を行うとこれも容易にCRPが減少します。

歯周病患者におけるCRPレベル

CRPが基準値以内であっても高い範囲にあれば心臓血管系疾患のリスクが上昇すると言われています。またCRPが高いと、糖尿病の発症・進行のリスクが上昇するとも言われており、歯周病が糖尿病や心臓血管系の疾患に密接に関わっていることが理解できたかと思います。

軽微な慢性炎症

■歯周病と糖尿病の関わり

それでは、歯周病と糖尿病との関わりを少しお話したいと思います。1993年のDiabetes Careで、歯周病が糖尿病の第6番目の合併症と言われています。糖尿病のガイドラインには、一昨年から歯周病の話しが入ってきていますが、実は1993年から言われていることです。ピマインディアンを対象とした疫学調査からの報告で、糖尿病患者と非糖尿病患者で歯周病の進行程度を表すアタッチメントロスを調べると、糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて全ての年代で歯周病が進行していることが明らかとなりました。

第6番目の糖尿病合併症:歯周病

1996年には歯周病の重症度と糖尿病の関係も報告されています。境界型の患者で2年後に糖尿病と診断された患者の割合を、歯周組織が健康な者と重度の歯周病患者とで比較した論文です。HbA1cが9%以上を糖尿病と判断していますが、歯周組織が健康な人は11.3%だったのに対し、重度な歯周病患者は37%で、3倍以上の開きがありました。このようにバックグラウンドに重症の歯周病がある場合には、それだけ糖尿病に移行しやすいということが報告されています。

重度の歯周病患者は糖尿病への移行が3倍以上

では、歯周病と糖尿病のメカニズムの重なりを検討してみましょう。いろいろなメカニズムが考えられますが、今回は、AGEs(Advanced Glycation End Products:最終糖化産物)に注目します。糖尿病患者ではAGEsが非常に多く産生されます。これがマクロファージのレセプター(RAGE)に結合すると、マクロファージが活性化します。活性化したマクロファージはTNF-α、IL-1β等のサイトカインやPGE2を産生し、それが糖尿病合併症につながると考えられています。

歯周病と糖尿病のメカニズムの重なり_AGEs

歯周病側からも見てみましょう。歯周病原細菌はグラム陰性偏性嫌気性菌のため、LPSを持っています。LPSはマクロファージを活性化し、TNF-αやIL-1β等のサイトカインやPGE2が産生されます。これらのサイトカインやPGE2が破骨細胞を活性化し、歯周病の進行につながると考えられています。マクロファージ、AGE、そしてLPSを軸にして、歯周病の重症化と糖尿病合併症のメカニズムが重なってきましたね。

糖尿病ラットの歯槽骨吸収は、AGEの働きを抑えると防げる

では実際にAGEによる破骨細胞の活性化が歯槽骨の吸収につながるのでしょうか。この研究は2000年に発表されたもので、糖尿病ラットを使いAGEの働きと歯槽骨の吸収について研究したものです。AGEのレセプターであるsoluble RAGE (sRAGE)を加えると、マクロファージに結合するAGEが少なくなり、歯槽骨の吸収を抑えることができました。つまり、AGEが歯槽骨の吸収や歯周病の進行に深く関わっていることが明らかとなり、注目されるようになったというわけです。

これが歯周病と糖尿病の関係のまとめです。

歯周病と糖尿病の関係

糖尿病の場合は、前述したように高血糖に伴いAGEが増加します。また、高血糖によって虚血状態や細小血管症、好中球やマクロファージ等の細胞機能の低下が起こります。そうしますと、細菌感染に対して無防備になるわけです。すなわち、歯周病原細菌の感染が起こると、LPSによりマクロファージが活性化されて炎症が増悪します。その結果、さらに炎症性メディエーターであるTNF-αやIL-1βの分泌増加が進みます。このTNF-α等は、インスリン抵抗性を上昇させますので、さらに糖尿病の悪化も招き、負のスパイラルが起こるというわけです(続く)

2014年3月31日 提供:酒井夏子(m3.com編集部)