慌ただしい現代社会。急いで食事をかきこむ癖のついた人は多い。早食いは健康に良くないと聞く。早食いの影響や、ゆっくり、よくかむための、アイデアを調べた。【足立旬子】
◇時間をかけて食事 歯ごたえのある食材利用
大阪大の磯(いそ)博康教授(公衆衛生学)らは30-69歳の男女3287人を対象に、早食いと肥満の関連を調査した。早食いで満腹まで食べる人は、そうでない人に比べると、肥満度を示すBMI(体格指数)が25以上の「肥満」になるリスクは約3倍だった。
人は食事をすると、血糖値が上昇し、満腹中枢が刺激され食事をやめる。ところが、早食いの人は、満腹を感じる前に多く食べてしまうため、エネルギー摂取量が多くなる傾向がある。磯教授は「早食いと怒りや疲れなど精神的ストレスも関係している。慢性的にストレスを感じる人は高カロリーの食べ物を好む傾向にある」と指摘する。
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今月22日、埼玉県戸田市文化会館で、65歳以上の男女11人がリズムに合わせ、口をとがらせたり、すぼめたりする運動をしていた。頬(ほほ)の筋肉を動かすなど、12種の動きを取り入れた「お口の健康体操」だ。
指導する埼玉県歯科医師会の白根雅之・歯科医師は「よくかむと、あごの骨や筋肉が動いて血液循環が良くなり、脳細胞の動きが活発になり、脳の老化を防ぐ。口に入れた食べ物が小さくなるので、のどに物が詰まりにくくなり窒息予防のもなる」と強調する。参加した女性は「毎朝、食事前に体操している。口の周りが軽くなり、おいしく食べられるようになった」と話す。
体操には、あごの下の唾液(だえき)腺を刺激する運動を取り入れている。白根さんによると、唾液に含まれている酵素「アミラーゼ」はでんぷんを分解し、胃腸の負担を減らす。また、口の中の汚れを洗い流し、歯の表面をきれいにする。口の中を常に中性に保とうとする作用もある。唾液は、かめばかむほど出る。
ハンバーガーやカレー、牛丼、ラーメンなど軟らかく、食べやすい食事は、忙しい人にはとても便利だ。日本咀嚼(そしゃく)学会元理事長の斎藤滋さんは、時代とともにかむ回数がどう変化してきたかを、当時の食べ物から推測した。現代人が1回の食事でかむ回数は、弥生時代の6分1以下、食事時間も5分の1という。戦前と現代を比べてもかむ回数、食事時間とも半分以下に減っている。斎藤さんの助言を受け、出版社「学校食事研究会」(東京都千代田区)は、よくかむことの効能を八つ揚げ、それぞれの頭文字をとって「卑弥呼(ひみこ)の歯(は)がいーぜ」とのキャッチフレーズを作った。弥生時代後期の女王、卑弥呼にちなんだ。
◇毎日の食事でどうやって早食いを防止すればいいか。
白根さんによると、(1)一口で食べる量を少なくする(2)30回かむ(3)一口飲み込むごとに、はしを置く…ことをあげる。
メニューから工夫することもできる。歯ごたえのあるレンコンやゴボウなど、食物せんいの多い野菜や小魚を加えたり、白米に玄米を混ぜるのがお勧めだ。
「会話を楽しみながらゆっくり食事をすると、親近感も深まる。子どものころから身につけることが大切だ」と白根さんは助言する。
◆よくかむと期待できる8大効用
◇ひ |
肥満予防=少量で満腹感が得られ、ダイエットに |
◇み |
味覚の発達=食べ物本来の味が分かる |
◇こ |
言葉の発音はっきり=あごが発達し、歯が正しくはえそろって、かみ合わせが良くなる |
◇の |
脳の発達=脳細胞の動きを活発化。ぼけ防止にも |
◇は |
歯の病気予防=唾液がたくさん出て歯周病や虫歯を予防 |
◇が |
がん予防=唾液には発がん物質の働きを抑える物質が含まれるという。 |
◇い |
胃腸快調=よくかむほど消化酵素がたくさん出て、胃腸の負担を軽減 |
◇ぜ |
全力投球=奥歯をぐっとかみしめることで、力いっぱい遊びや仕事ができる |
※学校食事研究会発行「学校の食事」などから作成 |