スペイン風邪から探る
重度の肺炎発症 免疫機能が暴走
今の治療法は無力?
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新型インフルエンザは、日本でも毎年冬に流行するインフルエンザとは全く違う新興感染症になる可能性がある。約90年前、大流行した当時の新型インフルエンザ「スペイン風邪」の“再来”と見る専門家も多い。スペイン風邪がどうして4千万人もの命を奪ったのか。ウイルスの正体が次第にわかってきた。
人工合成したスペイン風邪ウイルスをサルに感染させると、普通のインフルエンザでは考えられない重度の肺炎を引き起こし死なせてしまう。東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らが実験で示し、18日発売の英科学誌「ネイチャー」最新号に発表した。
死んだサルの肺を調べたところ、肺の中に大量の水や血液がたまっていた。インフルエンザで肺炎を併発することはよくあるが、こうした症状は普通起こらない。
病原体から体を守る免疫機能にも異常が見られた。人やサルなど霊長類がウイルスに感染すると体内でサイトカイン(たんぱく質の一種)が分泌され、ウイルスが増えるのを防ごうとする。スペイン風邪ウイルスに感染したサルは分泌パターンが乱れ、増殖を阻止するインターフェロンが減り、逆に炎症を促す物質が極端に増えていた。
河岡教授は「免疫系が暴走したことが、スペイン風邪が猛威をふるった一因ではないか」と分析する。
現在アジアなどで鳥の間でまん延している鳥インフルエンザ。ウイルス(H5N1型)は人から人へうつる新型タイプにまだ変異していないが、インドネシアなどでは人が断続的に鳥インフルエンザにかかり死亡している。
国立国際医療センターの工藤宏一郎・国際疾病センター長は2005年、ベトナムで鳥から感染した患者の治療にあたった。「症状は激しく進行が早い。(インフルエンザで併発した)通常の肺炎の治療法では刃が立たなかった」と話す。
H5N1型はスペイン風邪ウイルスと同じ鳥由来。ウイルスの突起の一部が人の細胞に結合しやすく変化したタイプも見つかり始めている。
田代真人・国立感染症研究所部長は「H5N1型から新型インフルエンザが出現すれば、人類がまだ体験したことのない多臓器不全を引き起こす重症全身性感染症になるだろう」と警告する。
▼新興感染症 かつては知られていなかったが過去20年ほどの間に新たに確認され、公衆衛生上問題となる感染症のこと。約4年前、中国などで流行した重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)や1970年代のエボラ出血熱、1980年代のエイズなどがある。
種類 |
出現した年 |
ウイルスの型 |
世界の死者数(推定) |
スペイン風邪 |
1918年 |
H1N1型 |
2000万から4000万人 |
アジア風邪 |
1957年 |
H2N2型 |
200万人以上 |
香港風邪 |
1968年 |
H3N2型 |
100万人以上 |
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