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顧客に誠実であり続ける努力を、 イオン家電に見る。
宣伝における真実とは、隠されたデメリットや副作用を公開すべき

日経エレクトロニクス雑誌ブログ
「顧客に誠実であり続けること」の価値


日経エレクトロニクス2009年11月2日号に若い記者と二人で「イオン健康家電の正体」という特集を書きました。一筋縄ではいかないテーマで,正直,まとめるのに苦労しました。

 この特集の取材を進める中で常に考えていたのが,「顧客に誠実であるとはどういうことか」ということです。

 みなさんご承知のように,この不況で白物家電は軒並み売り上げを落としています。ところが,放電で生成した活性種(いわゆるイオン)を利用するウイルス抑制効果を前面に押し出した空気清浄機だけは売り上げを大きく伸ばしています。新型インフルエンザの影響です。この「特需」を逃すまいと,各メーカーは自社技術のアピール競争を繰り広げています。例えば,三洋電機は「世界で初めて新型インフルエンザ・ウイルスに効果」,ダイキン工業は「新型インフルエンザ・ウイルスを100%分解・除去」といったように技術発表や宣伝を行っています。実際にこの2社は,これらの発表の効果で製品の売り上げを大きく伸ばしたそうです。

 宣伝によって製品の魅力をアピールするのは当たり前であり,それ自体は何ら責められることではありません。もっとも,こうしたアピールが本当に製品の優位性を表しているのかどうかには疑問が残ります。典型的なのが「100%分解・除去」という表示です。この表示に対して「科学的ではない」という批判が当初からあり,家電の表示に関する規約を定めている全国家庭電気製品公正取引協議会でも問題視されました。その結果,ダイキン工業は「100%分解・除去」のテレビCMを取りやめました。「新型インフルエンザ・ウイルスに対する効果」にしても,H1N1型の通常のインフルエンザ・ウイルスで試験を行っていれば,同じくH1N1型の新型インフルエンザ・ウイルスで重ねて試験を行う意義は薄い,との意見もあります。

 メーカーが本来,考えるべきなのは「商品を購入した消費者にどのような価値を提供できるか」ということであるはずです。ところが,こうした宣伝競争からは「取りあえず売れればいい」という考えがうかがえます。「インパクトのある言葉を使っておけばいい」というのは,結局のところ,「消費者には正しい判断力はない」と見なしているということです。

姿勢は必ず見透かされる

 建前できれいごとを言っているのではありません。消費者を見下す姿勢はいつか消費者に見抜かれます。そうなれば,ビジネスに悪影響が出ます。

 私自身,「何を書けば読者のためになるのか分からない」という悩みから,「どんな文章を書いても読者に分かってはもらえない」という黒い考えにとりつかれることがあります。

 そうした気持ちを引きずっていたまま書いたのが,「『組み込まれソフトウエア』の悲しみ」というNEブログでした。意図的に読者を挑発してみたのです。予想されていたことですが,「参考にならなかった」という記事評価の票がたくさん入りました(何らかの意味を読みとって「参考になった」と投票してくださった方,ありがとうございます)。「姿勢というのは簡単に読者に伝わるものだな」と思うとともに,「今後は読者を見下すようなことは書かないよう心がけよう」と反省しました。

 インターネットの普及により,既存のメディアはコンテンツの質を厳しく問われるようになりました。Webには,既存メディアを凌駕する質のコンテンツが数多くあるからです(そうでないコンテンツも大量にありますが)。今後,消費者の間での情報共有の仕組みが整備されていくに従って,一般の製品も「消費者にとっての価値」が今以上に厳しく問われるようになるでしょう。そうした時にメーカーの最大の武器になるのは,消費者に対する「誠実さ」です。

 11月2日号の特集では「メーカーは誠実であるべき」といった説教じみた話はしていません。あくまで「イオン健康家電の正体」にフォーカスを当てました。ただ1点,この号の表紙にある「誠」の文字に,ここに書いたような思いを込めたつもりです。大森 敏行

2009.11.2 記事提供 日経エレクトロニクス