国立感染症研究所と日本油脂は、体の免疫力を利用してウイルスやがんなどを治療する新型ワクチンの技術を開発した。特殊な超微粒子を体内に入れ、免疫力を高める。動物実験で、がん細胞を縮小することもできた。様々な病気の予防・治療に応用可能で、C型肝炎や鳥インフルエンザなどのワクチンの開発に着手した。
感染研の内田哲也主任研究官らが中心になって開発した。免疫機能の中核を狙う細胞「細胞障害性Tリンパ球(CTL)が、ウイルスやがんの表面にあるたんぱく質り断片「ペプチド」を目印にして攻撃する。新技術は「ペプチドワクチン」と呼ばれ、ペプチドを免疫細胞に効率よく提示して働きを活性化する。
ワクチンの構造は、「リポソーム」と呼ぶ直径数百ナノ(ナノは十億分の一)メートルの微粒子の表面にだけペプチドがくっついている。リポソームの材料を工夫し、免疫反応を誘導するようにした。
開発が難しかったC型肝炎やエイズの予防ワクチンや、何度も接種する必要のないインフルエンザ予防ワクチンが実現する可能性がある。動物実験で、免疫細胞を活性化させることができただれでなく、病原体にくっついて攻撃する抗体もできた。一方で、アレルギーの原因となる抗体はできなかった。
研究グループは新技術を使い、北海道大学と鳥インフルエンザの人間用ワクチンの開発を始めた。また埼玉医科大学と協力し、C型肝炎と重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)の予防ワクチンの開発に乗り出した。1〜2年をメドに有効なペプチドを選定し、製薬会社などと共同で臨床試験を始める。
ワクチンには様々な種類がある。ウイルス粒子など抗原そのものを使うものもあるが、免疫反応の1部しか起こらない問題があった。ペプチドを利用するワクチンもあるが、体内では分解や排出で免疫力を引き出せない課題がある。免疫細胞を一旦体外に取り出して培養して活性化させる必要があり、手間がかかっていた。
▼ワクチン
免疫反応を引き起こし、病気予防や治療に使う製剤。ウイルスを抗原として使い、体内に抗体を作る。インフルエンザは、病原性をなくした不活化ウイルスをワクチンにして予防する。
最近は、ウイルスそのものを使うのではなく、ウイルス表面のたんぱく質の一部(ペプチド)だけを使うワクチンの研究も盛ん。ウイルスの中で変異を起こしにくい部分だけを使うことができるので、協力なワクチンができると期待されている。
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