年間1000人超が選択スイスの安楽死 – 1st Dental CLUB 連載コラム

スイスでは安楽死を求め自殺ほう助団体に登録する人が増えています。国内には外国人を受け入れる団体もありますが、自殺ほう助を受けるには厳しい条件をクリアしなければなりません。

スイス連邦統計局によると、国内の自殺ほう助による死亡者数は増え続け、2017年末では1000人を超えました。65歳超が大半ですが、若年層も増えてきています。この数値には国外居住者が含まれておらず、実際の数はさらに多くなるとみられます。

国内の自殺ほう助主要3団体が公表した2019年の件数は計1470人に上ります。

国内最大の自殺ほう助団体エグジットによると、2019年に同団体のサービスを受けて自殺死亡した人のうち、最も多かったのはがん患者（36％）でした。複数の疾患が併存する多疾患罹患が次に多いです。疼痛患者は7％、筋萎縮性側索硬化症（ALS）は全体の3％です。認知症（2％）、精神疾患（2％）もあります。

スイスでは、医師など第三者が患者に直接薬物を投与するなどして死に至らせる「積極的安楽死」は法律で禁止されています。認められているのは、医師から処方された致死薬を患者本人が体内に取り込んで死亡する「自殺ほう助」です。

自殺ほう助を受ける条件は団体によって若干異なりますが、大まかには以下の通りです。

自殺ほう助以外に苦痛を取り除く方法がないこと、突発的な願望でないこと、第三者の影響を受けた決断でないことも考慮されます。

精神障害や認知症を持つ人も、健全な判断能力があると認められれば自殺ほう助を受けられますが、実施に至るケースはまれです。

自殺ほう助を受けるにはまず団体に会員登録（年間40～80フラン、約4600～9200円）し、医師の診断書や自殺ほう助を希望する身上書を指定された言語（英語・独語・仏語など）で提出します。団体の専門医が審査し、認められれば許可が下ります。申請から自殺ほう助に至るまでは通常数カ月かかります。

自殺ほう助は通常、医師から処方された致死量のバルビツール酸系薬物を患者本人が点滴のバルブを開けるか、口から飲み込んで体内に取り込み、死亡します。スイス国内居住者では自宅を実施場所に選ぶ人が多いです。

国外からくる自殺ほう助希望者は数日間の滞在中に専門医の面談を受け、医師の許可が下りれば団体所有の建物内で自殺ほう助を受けます。

スイスで最も歴史が古いエグジット（1982年設立）は2019年末、会員数が過去最高の12万8212人（ドイツ語圏・イタリア語圏）に上りました。フランス語圏のエグジットA.D.M.Dは2万9875人で、こちらも2010年以降で最多です。エグジットはスイス国籍保有者か、国内居住者のみが会員になれます。

国外居住者を受け入れている団体はディグニタスが最大。2019年末時点で9822人の会員がおり、約9割が国外居住者。最多はドイツです。

そのほかにもバーゼル拠点のライフサークル、ペガソスなどが国外居住者を受け入れています。

スイスには「安楽死」について定めた独立法は存在せず、連邦刑法115条が「利己的な理由で他者の自殺を誘導・手助けした場合は5年以下の懲役または罰金刑に処される」と規定しています。専門家によると同条文は1942年、安楽死とは別の理由で制定されましたが、その後自殺ほう助団体の法的根拠になりました。

スイスでは自殺ほう助に絡み、これまで複数の医師・関係者が逮捕・起訴されています。

バーゼル拠点の団体ライフサークルを主宰する医師エリカ・プライシヒさんは2019年7月、精神科の専門医でないのに精神病患者の判断能力があると認め、この患者に自殺ほう助を行ったとして起訴され執行猶予付きの有罪判決を受けました。

同年秋には、エグジットA.D.M.Dの副代表ピエール・ベックさんが、重病の夫と共に死にたいと訴えた健康な女性（86）の自殺を手助けしたとして、執行猶予付きの罰金刑を受けました。いずれの事件もまだ係争中です。

スイスの自殺ほう助団体はいずれも非営利の形を取り、財源は会費・寄付で賄われます。ただ昨今の会員増で団体の資産が膨れ上がり、使途の透明性を危惧する声も出ています。

独語圏の日刊紙NZZによれば、エグジットの総資産は2013年の940万フランから2019年には2900万フラン（約31億円）に達しました。

実際に裁判に発展したケースもあります。ディグニタスの創始者ルートヴィヒ・ミネッリ氏は2018年、自殺ほう助を希望する人たちから不当に高い手数料を取ったとして訴えられました。ただ裁判所は、検察側の主張は立証が不十分だとして無罪判決を言い渡しました。