無症状感染にも予防効果、イスラエル大規模接種で見えてきた終息への希望

参考:MIT Technology Review 2021.02.26

無症状感染にも予防効果、イスラエル大規模接種で見えてきた終息への希望

MITテクノロジーレビューが入手したイスラエル保健省とファイザーの報告書によると、新型コロナ・ワクチンは現実世界でも感染を大幅に抑制できることが分かりました。全人口の3割が接種済みのイスラエルは、世界で最初に集団免疫を獲得する国になる可能性があります。

イスラエル保健省とファイザーが共同で作成した未発表の科学報告書によると、ファイザーの新型コロナウイルス・ワクチンは90%近くの感染を防ぎ、イスラエルは3月までに集団免疫に近づく可能性があります。

イスラエルにおける数十万人分の健康記録に基づくこの研究は。ファイザーのワクチンが新型コロナウイルスの感染を大幅に抑制する可能性を示しています。「ワクチンを積極的に投与することで、パンデミック(世界的な流行)を有効に抑えられます。ワクチン接種プログラムが他の国々でも増えてくれば、最終的にパンデミックを制御できる希望が見えてきます」と執筆者は述べています。

イスラエル全土を対象としたこの研究は、イスラエルのニュースサイト「Yネット(Ynet)」が2月18日に報じ、MITテクノロジーレビューも報告書のコピーを入手しました。

この調査結果が重要なのは、イスラエルが世界に先駆けて国民にワクチン接種を実施しているからです。いまやイスラエルは、ワクチンがパンデミックを終結できるかを知るための現実の実験場になっています。

現在までにイスラエルにおける全人口の32%がワクチン接種を完了しており、全員がファイザーのワクチンを接種しています。新型コロナウイルス・ワクチンの接種率は、現時点で世界一です。

この報告書は、ファイザーのワクチンが新型コロナウイルス感染症の発症と死亡を93%以上減らせることを裏付けています。そして、無症状を含むほとんどの感染をワクチンで防ぎ得るという、最初の大規模なエビデンスを提供するものです。

これにより、イスラエルはいわゆる集団免疫を得て、ロックダウンなしでもウイルスが拡散しない程度の集団耐性を達成する最初の国になる可能性があります。

イスラエルが国民に対して迅速にワクチンを接種し続け、かつワクチンの有効性が低い変異株が現れない限り、「イスラエルは3月までに新型コロナウイルスに対する集団免疫のしきい値に近づく可能性があります」と研究は主張しています。

イスラエルは、16歳以上の国民640万人全員にワクチン接種を実施するキャンペーンを12月に開始し、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、十分な数の国民が接種を受ければ、イスラエルは日常に戻れると約束しました。「これは最後のロックダウンになるだけでなく、新型コロナウイルスとの決別になります」と2月15日にテレビのインタビューで語りました(注:2月15日は2020年12月から続けてきたロックダウン中)。「我々は、新型コロナウイルスから脱却する最初の国となるでしょう」。

最前線で

この22ページの非公表報告書は、イスラエルの著名なジャーナリスト、ナダヴ・エヤルが最初に入手し、2月18日にその調査結果について報じたうえ、ツイッター上で報告書のスクリーンショットを公開しました。

ファイザーは、研究資料の信憑性について明言しましせんでした。筆頭執筆者は、イスラエル保健省のシャロン・エルロイ・プライス公衆衛生責任者と、保健省のエリック・ハース研究員となっています。また、この研究はファイザーの8人の研究者によるチームで実施され、その中には疫学者のファリド・カーンやジョン・マクラフリンのほか、以前、米国疾病予防管理センター(CDC)に勤務していた感染症の専門家であるデビッド・スワードローも含まれています。

イスラエルは2021年の初め、ワクチンの安定供給と引き換えにワクチン接種に関するデータの共有にファイザーと合意しており、この研究は合意後初の保健省とファイザーによる共同報告となるものです。

ファイザーは自社の「コミナティ(Comirnaty)」という名称のワクチンが、大規模な集団に対してどう機能するかを幅広く追跡しており、イスラエル保健省との共同研究はその一環です。同社は先週、MITテクノロジーレビューに対して「イスラエルを含む世界中のいくつかの場所で現実世界におけるワクチンの有効性」を研究しており、「特にイスラエルからの実地データを調べ、新しい変異株により引き起こされる新型コロナウイルス感染症の防御に関するワクチンの潜在的な効果を見極めようとしています」と語りました。ファイザーのワクチンは、米国と欧州で使用が承認されているモデルナのワクチンと同様に、ウイルスに関する情報を伝達するメッセンジャーRNA(mRNA)を2回注射することで、感染を認識してウイルスを攻撃する抗体を作り出します。

今回の新しい調査結果は、イスラエルの大手医療サービスであるマッカビ・ヘルスケア・サービス(Maccabi Healthcare Services)とクラリット・ヘルス・サービス(Clalit Health Services)から最近別々に発表された内容とほぼ一致しています。両社は、合わせてイスラエル国民の80%をカバーしています。

2月14日、クラリットの最高イノベーション・研究責任者であるラン・バリサーは、120万人から収集されたエビデンスによって「2回目の接種から1週間経ったファイザーの新型コロナウイルス・ワクチンが、現実世界で非常に効果的であることを明確に示しています」と語りました

他の分析によると、最初にワクチンを接種したイスラエル高齢者の間では、深刻な感染の広がりと死亡が減少しました。一方で、ワクチン接種を受けていない44歳未満のイスラエル国民の間では感染、死亡共に減少していません。

今回のイスラエルの報告書には、1月と2月の3週間における観察結果について記されています。研究チームは、この期間においてワクチン未接種の人と、1週間以上前に2回目を接種した人の健康記録を比較。「感染」「症状あり」「入院」「重症による入院」「死亡」の5つの結果について、接種グループと未接種グループを比較しました。これによると、ファイザーのワクチンは新型コロナウイルスの発症予防に約93%有効でした。ファイザーとそのパートナーであるドイツのバイオンテック(BioNTech)は、2020年の臨床試験で95%の有効性を確認していました。イスラエル全土を対象とした今回の研究では、ワクチンを接種したグループ内において入院者数と死亡者数が同程度減少したことも明らかになりました。

イスラエルは国民の大部分を包括的に検査しており、研究チームはファイザーのワクチンが無症状感染を含む検出可能な感染を完全に防ぐのに89.4%有効だと推定しています。

この新しい発見は、ファイザーのワクチンが人々の間でウイルスが伝播することを強力に抑制し、アウトブレイクの終結に貢献する可能性を示しており、ファイザーとイスラエルの研究チームは、その実現可能性について注視していると述べています。「イスラエルによって、新型コロナウイルスの感染に対する免疫を行き渡らせる全国的な効果を観察できる貴重な機会が与えられました」。カリフォルニア州に拠点を置く非営利の医療研究施設、スクリプス研究所(Scripps Research)のエリック・トポル医師はこの報告書を査読した上で、「報告されている感染の防止は、我々が確信できなかった無症状感染に対するワクチンの効果を物語っています」と話しています。

一方、トポル医師は、「この研究だけで結論を下せるものではありません」と慎重な姿勢を示し、無症状感染を排除するためには、検査をより高い頻度で実施する必要があると語りました。こうした検査は、ファイザーも実施している研究の一種です。もうひとつ、不明点としてトポル医師が挙げるのが、ワクチンの効果が時間とともに減少するか否かです。

変異株に打ち勝つ

イスラエルでのワクチン接種キャンペーンは、「B.1.1.7」と呼ばれる感染力が強い英国由来の変異株が広まった頃と同時期に始まりました。B.1.1.7変異株は、イスラエルでは12月23日に最初に報告され、2月中旬には同国における感染源の80%強を占めるまでに広がっています。

実験室での研究では、変異前のウイルスと同様にB.1.1.7に対してもワクチンの有効性が示されており、イスラエルでの実際の経験は否応なしにこれを裏付けています。

「B.1.1.7は、積極的にワクチンを投与すれば鎮圧できます。これは大切なことです」とトポル医師は話します。

しかし、他の変異株については、依然として懸念されています。2月中旬、ファイザーとバイオンテックは、実験室でテストした結果、南アフリカで拡大している変異株「B.1.351」に対しては抑止力がより弱い可能性があると発表しました。この変異株に対しては、他のワクチンも同様に苦戦しています。

南アフリカ由来の変異株はイスラエルにも入ってきていますが、それに対するワクチンの効果を評価するうえで十分な症例数はありませんでした。今回の報告書は、ワクチンの効果が薄い場合、新しい変異株によって「集団免疫へ向かうイスラエルの進展が妨げられる可能性があります」と警告しています。

集団免疫

集団免疫は、ウイルスに感染しやすい人が減り、マスクやソーシャル・ディスタンスなどの対策をしなくても感染者数が減少に転じるしきい値を指します。

このしきい値に達するために免疫を獲得しなければならない人口の正確な割合は不明ですが、60~85%と推定されています。また、最終的にワクチン接種に同意するイスラエル人の数も、まだ明らかになっていません。イスラエルではワクチン接種は任意であり、若年層や超正統派ユダヤ教徒、アラブ系ベドウィン族の中にはワクチンに懐疑的な姿勢を持つ人もいます。

イスラエルにおけるファイザーのワクチン需要は、医療従事者と60歳以上の高齢者に接種が制限されていた1月のピークに比べて1日あたり37%減少しました。また、16歳未満の子どもはまだワクチン接種を受けておらず、その人口は国民全体の約29%を占めています。

ファイザーのワクチンは21日間を空けて2回接種する必要がありますが、2月18日にランセット(Lancet)誌に掲載された報告では、1回のみの接種でも、その2~3週間後に約85%の有効性を示したと述べられています(イスラエルでの調査結果に基づきます)。

朗報

だからといって、ファイザーのワクチンが絶対に確実な対策だということではありません。イスラエルでは依然として死者が出ており、ワクチンを接種した人々の間でもそれは同様です。

それでも、イスラエルのワクチン接種の取り組みに追いつこうと各国が競争を繰り広げている中、ファイザーのワクチンの成果は多くの国々を勇気付けるものです。

ファイザーとモデルナによる2種類のワクチンを1日あたり150万人以上に接種している米国は、すでに世界最大となる約5600万回分のワクチンを投与しています。しかし、人口が多いため、2回目までの完全なワクチン接種を終えた全国民の割合は約4.6%に過ぎません。

ジョー・バイデン大統領は2月16日、6ヶ月以内に米国全土でワクチン接種を実施するという目標の大まかな方針を述べました。テレビ放送されたタウンホール・ミーティングで、「7月末までに、6億回分のワクチンを入手できるでしょう。これは米国人全員に接種するのに十分な量です」と語りました。

他の国々は、国民にワクチンを接種するうえでより高いハードルに直面しています。mRNAワクチンを入手する手段がなかったり、有効性が低いワクチンに頼らざるを得なかったり、数が不足していたり、どのようなワクチンであれ入手に苦労していたりします。複数の推測によると、大半の途上国がワクチン接種を完了するのは2023年以降になり、その中にはイスラエルの近隣諸国も含まれる可能性があります。これまでのところイスラエルは、占領しているヨルダン川西岸とガザ地区に十分な量のワクチンを提供しておらず、そこに住む約500万人のパレスチナ人の大半は、いまだに接種できていません。

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