「大阪府コロナ第4波、中等症病床からの景色」

参考:2021年4月16日 (金)配信 倉原優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター)

ほぼ垂直に重症病床使用率が増加「この第4波なんか変ですよ」

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの倉原優人申します。私は16年目の呼吸器内科医です。当院は、第1波の頃から一丸となってCOVID-19と向き合ってきました。当院は主に中等症のCOVID-19を診ています。基本的に、自宅療養中・ホテル療養中にSpO2が低くなったCOVID-19患者さんが、搬送されてきます。

時期に応じて変動させていますが、365床(一般325床、結核40床)中、COVID-19用の稼働病床は最大55床あり、第1~3波でそれなりの患者数を診ています。そのため、入ってきた段階で肺炎が軽そうなら「この人は1週間くらいで帰れそうだ」、器質化傾向のある肺炎が両肺にまたがっていても「意外と大丈夫かもしれない」、SpO2が90%ぎりぎりで肺炎がすりガラス陰影主体だと「重症化するかもしれない」などの推定ができるようになってきました。

 第2波、第3波、第4波の違い

大阪府が日々公表している、重症病床使用率と軽症中等症病床使用率をグラフにしたものです(図)。第1波はほとんど関西にはCOVID-19の患者さんはいなかったため、実質第2波以降がわれわれの本番でした。第2波は高齢者施設のクラスターなどの患者が多く来院しましたが、比較的余裕をもって診ることができました。重症病床も比較的落ち着いていたと思います。第3波は、糖尿病や肥満などを背景に持つ患者さんが両側の肺炎を呈して来院することが多く、重症化する割合も第2波より高く、現場が一気に疲弊しました。重症病床も満床近い状態が続き、医療が逼迫する寸前のところまで行きました。

第4波は、これまでにない、異質な現象が起こりました。図のグラフを見ると分かりますが、軽症中等症病床使用率がじわじわと増える前に、ほぼ垂直に重症病床使用率が上がっています。決して誰かが「全部重症病床に送ろう」と嫌がらせをしたわけではなくて、軽症中等症病床にやってきた第4波の患者さんの多くが呼吸不全になっていて、ARDSに進展したことを意味しています。「この患者さんは安心できるな」と思った基礎疾患のない30代の患者さんが、あっという間に挿管・人工呼吸管理になっていくのを見て、今までの波との違いを痛感しました。

図:第2~4波の病床使用率(2021年4月15日時点)

第1~3波で当院に入院要請があったCOVID-19の平均年齢(±標準偏差)は68±17歳でしたが、第4波は年齢が若いのです〔平均年齢(±標準偏差)は53±19歳〕。今までより15歳若い患者さんが、重度の肺炎に陥るのが第4波の特徴です。「若くて元気だから、たぶん大丈夫だろう」とたかをくくっていたら、足をすくわれるようなARDSになっていく。そんな症例が続きました。基礎疾患がほとんどないのに、なぜかARDSに陥る。宿主要因なのか、ウイルス要因なのか。

重症病床がパンク

大阪府の定めたルールでは、挿管・人工呼吸管理を行うなら、重症病床へ転院する必要があります。しかし、転院要請を大阪府入院フォローアップセンターにお願いすると、4月7日あたりからこんな返事が返ってきました。

「大阪府内の重症病床、現在20人待ちです」

この時点で軽症中等症はまだ病床使用率が50%程度だったのです。そのため、「軽症中等症が埋まっていないのに、重症病床が満床なんてあり得ないだろう」と思いました。しかし、翌日もう一度確認しても、やはり満床だったのです。むしろ、日ごとに重症病床の待機人数が増えていくありさまでした。

第3波の終わりの時点で60人の重症患者さんがいたために「発射台」が高かったということ、卒業・入学シーズンによって人の動きが増えたことの因子もあると思いますが、何より軽症中等症病床に入院したCOVID-19患者の重症化速度が速いことが実感されました。

その後、大阪府から、軽症中等症を受け入れている病院に「少人数、人工呼吸管理になったCOVID-19をそのまま診てほしい」という依頼がありました。物理的に転院ができないため、やむを得ない状況でした。

「先生、この第4波なんか変ですよ、みんなしんどそうですし、どんどん悪くなっていくし……」

4月に入って1週間で15人ほどCOVID-19患者を受け入れた時点で、あるナースがそう言いました。確かに変だ。受け入れた患者さんの、半数以上が酸素を吸っている。肺炎はこれまでのCOVID-19と同じく、胸膜直下のすりガラス陰影で、ある程度時間が経過したものは浸潤影になります(写真)。浸出液によって肺胞の換気が障害されたぶんだけ、SpO2が下がります。この両側肺炎の頻度が、第4波では高いのです。

写真:COVID-19肺炎(自験例:両肺の胸膜直下に肺炎が多い)

入院した時点で、変異株の有無は調べられません。そういう検査が行える施設も出てきていますが、第4波当初、感度・特異度の疑義があって、使っていませんでした。保健所でN501Y変異があると確定されても、「E484K変異は見ていませんが、イギリス型かもしれません」と連絡がある程度でした。当時は変異株の退院基準でPCR検査で2回陰性を見ないといけない時期だったので(2021年4月8日に従来株と同様の基準に変更された)、COVID-19としての治療法は変わらないけれど変異株は全例個室隔離して毎日PCR検査をしていました。

とにもかくにも、この重症度の高い肺炎は変異株、特にN501Y変異を見ているのだろうと思いました。基礎疾患がなく、それ以外に原因が思いつかなかったからです。実際そういう報告が2021年に入っていくつか出ているので1)2)、現場としてはそうなのだろうと解釈するほかありませんでした。

 大阪府の第4波はどうなるのか

外来例は除いて、第1波以降、これまで当院が入院要請を受けた軽症中等症患者は300人以上に上ります。第4波の定義は一定していませんが、大阪府では2021年3月1日を基準にしています。とはいえ、現場としてかなり厳しくなってきたのは4月1日以降です。そのため、4月1日以降に絞って当院の症例を見てみました。

4月1日以降、15日間で当院に入院したCOVID-19は40人です。1日2~3人引き受けている計算になります。この40人のうち、酸素療法が適応された中等症Ⅱ例が23人(58%)、挿管・人工呼吸管理に至った重症例が8人(20%)です。これまでの重症化率(挿管・人工呼吸管理を要するもの)は12%でしたので、やはり景色が違います。CRPの中央値を見ると第1~3波の患者さんでは4.5mg/dL(IQR 1.8-9.6mg/dL)だったものが、第4波の患者さんで6.9mg/dL(同2.8-10.1)と高く(p=0.006)、フェリチンの中央値も444.7ng/mL(201.2-888.5ng/mL)だったものが、690.3ng/mL(412.2-1080.3ng/mL)と高い状況です(p=0.004)。

第4波の入口では、変異株クラスターが複数ありましたが、最近はコンタクトトレーシングができていないのか、「変異株です」という連絡はほとんどなくなりました。「感染者数が増えすぎてスルーされている症例が多く、見かけ上の重傷者が増えているだけかもしれない」と当初思ったのですが、もしそうであっても、やはり軽症中等症病床から順々に埋まっていくはずです。軽い肺炎のみで終わる人の方が少なく、酸素療法を適用されている人が大半である光景を見ると、第4波でCOVID-19の疾患特性が変わったとしか考えられません。

大阪府のシミュレーションでは、4月5日に発出した2週間後の4月19日にまん延防止等重点措置の効果が出て新規感染者が減り始めたとしても、5月上旬には重症者が300~400人以上に上るとされています。残念ながら梅田や難波などを見ているとまだ街中の人出は多い状況で、変異株の若年層の感染リスクが高いことから3)、もし実効再生産数が減少しない場合、この想定は2倍以上になるものと考えられます。

重症病床を急増できる期待は薄く、しばらく軽症中等症で人工呼吸管理を要する患者さんを見ていく必要があるかもしれません。奈良県のように民間病院に対して勧告を出せば、軽症中等症病床の確保は可能かもしれませんが、やはり足りないのは重症病床です。痛みを伴う緊急増床は、現場の反発も大きいため、今後大阪府の舵取りが重要になってきます。

大阪府ではCOVID-19、非COVID-19に限らず、大阪コロナ重症センターの稼働病床も含めると630床あまりを重症ベッドとして使用できますが、このうちCOVID-19に運用されているのは4月14日時点で241床です。すなわち、集中治療が可能なベッドのうち38%がCOVID-19に充てられています。緊急手術を除く待機的手術を一時的に減らすことで、重症病床のキャパシティーはもう少し増えるかもしれません。あるいは4:1看護、5:1看護の準ICU病床を重症用に転用するなどの案もあります。とはいえ、交通外傷や急性疾患に対応できる病床を最低限確保しておかなければ、COVID-19によって大阪府の重症医療の基盤が揺らぐというジレンマがあります。

第4波を乗り越えたとしても、ワクチン施策が完遂するまでの間、こうした波を幾度となく経験するのならば、重症病床をどう確保するかという課題が常に立ちはだかることになります。

【参考文献】

1)Davies NG, et al. Increased mortality in community-tested cases of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7. Nature . 2021 Mar 15. doi: 10.1038/s41586-021-03426-1.

2)Challen R, et al. Risk of mortality in patients infected with SARS-CoV-2 variant of concern 202012/1: matched cohort study. BMJ . 2021 Mar 9;372:n579. doi: 10.1136/bmj.n579.

3)Erik V, et al. Transmission of SARS-CoV-2 Lineage B.1.1.7 in England: Insights from linking epidemiological and genetic data. medRxiv 2020.12.30.20249034; doi:https://doi.org/10.1101/2020.12.30.20249034

Dr.堤より
>なぜかARDSに陥る。宿主要因なのか、ウイルス要因なのか。
ほとんどが宿主要因です。膿漏状態の粘膜、つまり、歯周病と腸もれ状態の人たちですね。
>第4波を乗り越えたとしても、ワクチン施策が完遂するまでの間、こうした波を幾度となく経験するのならば、重症病床をどう確保するかという課題が常に立ちはだかることになります。
変異株にワクチンは効かないでしょう。

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