7月半ば、新型コロナの新規感染者が半年ぶりに5万人を超えたイギリス。ですがジョンソン首相は7月19日、イングランドのロックダウン規制の大半を解除しました。すでにパブやレストランの座席制限が撤廃され、ナイトクラブは営業を再開。多くのイングランドっ子は、マスクを外してコロナ禍以前のような生活を楽しんでいます。
【グラフ】ワクチン普及を機に減少 イギリスのコロナ死亡者数の推移
「いまやらばければ、いつできるんだと自問自答することになる」
根強い反対論のなか、そう語ってロックダウンの解除に踏み切ったジョンソン首相が解除の根拠にしたのが、ワクチン接種の普及でした。
「イギリスは成人の約88%が1回目の接種を終え、2回目の接種を終えた人は成人の約68%です。ジョンソン首相はデルタ株の感染力の強さを認めつつも、『ワクチン効果によって1日の死者が1000人を上回った今年1月のような状況は避けられる』と強調して、法的規制の大半を解除しました」(現地ジャーナリスト)
規制解除への賛否が飛び交っていた7月23日、イングランド公衆衛生局がある調査結果を公表しました。
同調査は、2月1日から7月19日までにデルタ株に感染した約23万人をワクチンの接種回数などで分類。ワクチン未接種の感染者は12万1402人で、2回接種済みの感染者は2万8773人。そのうち、死亡者は未接種が165人、2回接種が224人でした。
亡くなった人の割合を計算した結果は、ワクチンを2回接種しながらも感染した人の死亡率(0.78%)が、未接種の感染者の死亡率(0.14%)を上回っていました。
この数字を額面通りに受け取れば、「ワクチン接種した人の方が死に近づく」と理解できるかもしれませんが、実際はそうではない背景があるようです。
打っても感染はする
血液内科医の中村幸嗣さんは「そもそもワクチンを打った人が、死亡リスクの高い人である可能性がある」と指摘。
「日本と同様にイギリスもリスクのある人を優先して接種を始めたので、ワクチンを打った集団に高齢者が多く、打たなかった集団には若者が比較的多かったのでしょう。わかりやすく言えば、ワクチンを打ったけれど寝たきりの老人と、ワクチンを打たなかったが外で遊び回っている若者の、どちらが感染したときに命を落としやすいかということです。従ってワクチンを接種したら死亡率が5倍になるという数字は単純に鵜呑みにできません」
イギリスでは7月下旬現在、ほぼすべての新規感染者が、4月頃にインドから流入したデルタ株です。多いときで1日1500人超、計12万人を超える人が新型コロナで命を落としたイギリスですが、ワクチンが行き渡りつつあるいま、感染力が強いデルタ株でも、死亡者は1日数十人にとどまります。公衆衛生局によれば、デルタ株でも入院に至る重症化を1回接種で8割弱、2回接種では9割超防げるといいます。
実際、先の調査でも、死亡者の大半を占める高齢者層(50才以上)において、ワクチン未接種の感染者の死亡率は5.6%で、2回接種の人の死亡率1.64%を大幅に上回りました。
ではなぜ全年代において、2回接種の感染者の方が、未接種の感染者より死亡率が高かったのでしょうか。
それは、若年者層(50才未満)においての未接種の感染者の死亡率(0.028%)と、2回接種の感染者の死亡率(0.026%)が拮抗していることと、若年者層の未接種の感染者数が圧倒的に多かったので、全体の未接種感染者の「分母」が大きくなり、死亡率が大幅に下げられたことが理由でしょう。
東京でも7月下旬時点でデルタ株は全体の3割超まで増えてきていて、ワクチン接種が進んでいます。今後、東京でもイギリスと同様に、数字の上で「ワクチンを打っても若い人の死亡率が減らない」という状況になる可能性もあるでしょう。
中村さんは、「ワクチンを打ってもコロナに感染することがある」とも指摘します。
「そのデータを見ると、2回ワクチンを接種しても、一定の割合で感染者が発生することがわかります。
2回接種してから感染すると、”ワクチンを3回接種した状態”に近くなり、免疫機能が強化されている状態では、ワクチン接種2回目以上に、発熱など副反応のような症状が強く出ることが考えられます。その傾向は、もともと免疫機能が充実している若者の方が顕著かもしれません。
そうしたケースでは、ワクチンを接種してから感染した人の方が、接種してない人よりも死に至りやすくなる可能性があります」(中村さん)
感染対策をすっかり忘れる
インターパーク倉持呼吸器内科院長の倉持仁さんは「抗体の有無」に注目します。
「ワクチンを接種しても、感染を防ぐための抗体ができない人が数%はいます。実際に私のクリニックで60人に2回接種したケースでも、抗体ができない人が3人いました。しかもワクチンを積極的に接種するのは、健康に不安がある人。そうした人は体力や免疫力の低下などで抗体ができにくい可能性があり、ワクチンを接種しても感染リスクが残りやすい。
そうした人が『2回接種したから安心』と出歩いたり、マスクや手洗いなどの感染対策を怠ると、当然、コロナに感染してしまいます。イギリスでも”接種済み”の慢心から、すっかり感染対策を忘れて街中に出かけた人が多いのではないでしょうか。それは高齢者よりも、社会的に活動的である若い世代が多いはずです。そうした若者こそ、デルタ株の感染を招いて死亡者を増やした原因かもしれません」(倉持さん)
イギリスではワクチン普及後、全体の死亡者は減っています。季節的な要因や、治療の精度の向上によるものもあるかもしれませんが、ワクチンが「脱コロナ」の1つの解決策であることは間違いないでしょう。だからこそ、「接種後に何が起きるのか」には細心の注意を払い、分析を続けていくべきでしょう。