参考:Quora
Kenn Ejima, PubMedサーフィンが日課です。
更新日時:8月8日
こちらのニュースですね。
ファイザー副反応、100万回に5件 モデルナ2件、新型コロナワクチン─厚労省:時事ドットコム
まず数字の部分を抜き出しておきます。
接種後に亡くなった人は7月30日時点でファイザー製912人、モデルナ製7人。老衰による死者なども含まれており、現時点でワクチン接種と死亡の因果関係があると判断された人はいない。
ワクチンの接種回数は7月25日時点でファイザー製約7414万回、モデルナ製約359万回に達した。厚労省は、それぞれの接種を受けた人の年齢層などが異なるため、副反応の出方を単純比較することはできないとしている。
さて、このような数字を読むときに、ざっくりと検証を行えるテクニックがあります。
「フェルミ推定」とか「Back-of-the-envelope calculation(封筒の裏の計算)」と呼ばれているものです。コンサルティング業界にいる方々にはお馴染みですね。
「東京都内にあるマンホールの総数はいくらか?」「スクールバスにゴルフボールはいくつ入るか?」のような、実際に調査することが難しい事象に対して、ありうる上限値と下限値ぐらいを見つけて、大体のオーダーが合っている近似計算を行うテクニックです。
このテクニックで重要なのは、「まず大きいところから数字を掴むこと」です。今回の場合でいうと、ワクチンの接種とは無関係に、そもそも日本では1日あたり何人の人が死んでいるのか?を知ることです。
これについては、「人口動態統計月報年計」という公式データがありますのでそれを使いましょう。
このデータによると、平成30年(2018年)の死亡数は136万2482人で、前年の134万397人より2085人増加しているそうです。
このペースで増えていれば、2021年現在には140万人/年は超えてそうですが、細かい数字は無視して総死亡数=136万人/年ということにしておきましょう。
この時点で、もし仮に日本人全員の100%がワクチンを接種するとして年間136万人ぐらいの死亡までなら例年通りで正常、それを超えていれば異常ということです。
年間136万人が死んでいるわけですから、365で割れば、1日あたり3,726人が死んでいることがわかります。これは2018年のデータですから、当然ながら新型コロナのパンデミック以前の数字です。
では実際にワクチンを接種した人は何人ぐらいいるのかというと、首相官邸のワクチン情報サイトによれば、7月末時点で1回以上接種した人の数は57,443,062人、人口の43.8%だそうです。
大きいところのデータは出揃いましたので、整理のため並べてみましょう。
- 日本人は毎日3,726人が死んでいる
- 7月末時点で人口の43.8%(=57,443,062人)が少なくとも1回ワクチン接種した
つまり、3,726*0.438=1,632となるので、ワクチンを接種してすぐに副反応で死ぬのだとすれば、7月末時点で、
1,632/日ぐらいの死亡ペースであればパンデミック以前と変わらず正常、それを超えていれば異常
ということになります。
さて、ここで冒頭の記事を振り返ってみましょう。
接種後に亡くなった人は7月30日時点でファイザー製912人、モデルナ製7人。老衰による死者なども含まれており、現時点でワクチン接種と死亡の因果関係があると判断された人はいない。
ワクチンの一般接種を開始したのは5月頭でしたから、もう3ヶ月ぐらい経ちますが、ワクチン接種後に亡くなったのはたった919人?
例年どおりならば、何もなくても1,632人/日(90日で146,880人)ぐらい死んでるはずなのに、むしろあまりにも死亡者数が少なすぎて逆に気持ち悪いですよね。ワクチンは、実は不老不死の薬だったのでしょうか?(もちろん、そんなことはありません。後で種明かしします)
ここまでついてこれた皆さん、おめでとうございます。
「912名の死亡では少なすぎる」という結論に達したならば、フェルミ推定の試験には合格です。
ここまでは医療の知識がゼロでもできる推定で、ここから先はドメイン知識が必要となる領域です。
そもそも、この死亡者数のファイザーとモデルナの数字の食い違いに違和感を感じませんか?
この件について、もっと詳しい報告によると、
- ファイザー接種後の死亡者は828人で、100万人当たり19人
- モデルナ接種後の死亡者は6人で、100万人当たり2.2人
この数字から単純計算する限り、ファイザーのほうがモデルナより8.6倍ぐらい死亡率が高いのですが、どういうことでしょうか?
これは、ファイザーが主に自治体で65歳以上の高齢者の接種に使われてきたのに対して、モデルナは職域接種などで若い世代の接種に使われてきたことを反映しています。
つまり、年寄りのほうが若い人よりも死にやすい、という当たり前のことを観測しているに過ぎないのです。
では912+7人という少ない死亡者数は、どう説明がつくのか?ということですが、これは「副反応が疑われる死亡例について報告が行われる」という厚労省のシステムにそのカラクリがあります。
つまり、裏を返せば「副反応が疑われていない死亡については報告が行われない」ということです。
人は様々な原因で死にます。ワクチンを打ったあとで雷に打たれて死んだとか、交通事故にあって死んだとか、海で溺れて死んだとか、そういう死亡例をわざわざ「副反応疑い」として報告しないのは、まぁ理解できるでしょう。
つまり、報告された912+7例は、もしかしたら副反応の影響もあるかもしれない、念の為報告しておこう、となった例の数なんです。この時点で、明らかに関係がないと考えられるものは省かれている、ということです。
ここからさらに、専門家による評価が入ります。
インカ癌系評価というもので、α(因果関係が否定できない)、β(因果関係が認められない)、γ(因果関係が評価できない)の3つに分類されます。
これまでのところ、αに分類されたものは1件もありません。
つまり、明らかにワクチンの副反応のせいで死亡してしまった、といえる事例は、これまでのところない、ということなのです。
しかし一方で、因果関係「なし」と断定されたβも少なく、実際には因果関係が「評価できない」とされたγが圧倒的に多い、ということです。
このγに分類された宙ぶらりんな数字は、科学的な誠実さのあらわれです。評価ができないものは、評価ができないものとしてデータを残す、という姿勢です。
因果関係が「ある」とも「ない」とも評価しかねる死亡例が、特に高齢者の接種が多いファイザーでは10万人あたり2人ぐらいはいる、そしてさらにその2人を吟味した結果、本当に因果関係がありそうな事例は1000に1つもなかった、ということなのです。
私はワクチンの副反応で死ぬことがありえない、と言いたいわけではありません。ワクチンを接種する利益よりも不利益のほうが大きい人、というのは少なからず存在します。
ワクチンを打つ、ということは、わかりやすさを優先してザックリとした表現をすれば「毒性を1/100ぐらいに弱めたコロナに感染する」ことと同義だと考えて差し支えありません。
つまり、ちょっとした風邪にかかるのと同じことになるわけです。
しかし、世の中にはちょっとした風邪でも絶命しかねない人、というのは一般人が想像するよりも多く存在します。たとえば、もう死期が間近に迫った高齢者にワクチンを接種すれば、最後の引き金をひいたのがワクチン、ということにもなりうるでしょう。
そういう人にワクチンを打って亡くなれば、「私が殺してしまった」という自責の念が残るかもしれません。しかし、その人を責められるでしょうか?そういったギリギリの判断をせざるをえない人も世の中にはいる、という想像力は必要です。
しかし逆に、ワクチンの副反応を必要以上に恐れるあまり、実際のコロナに感染したほうがマシだ、と本末転倒な結論に至るのは極めて愚かなことです。
ワクチンの副反応として知られている数々の症状は、血栓から心筋炎からハゲに至るまで、(唯一のワクチン固有の副反応と呼べるアナフィラキシーを除けば)すべて例外なく本物のコロナ感染でも発症します。1/100コロナと1/1コロナでは、どちらが危険か、言うまでもないでしょう。
副反応が強く出る人は、本物のコロナに感染すればもっと劇症化していたわけですから、ますますワクチンで良かった、このぐらいで済んで良かった、計画的に1/100コロナに感染できて良かった、と理解するのが賢明です。
ワクチンのリスクをよく吟味しなければいけないのは、1/100コロナでも危険と考えられる人、生命力のキャパシティに一切の余裕がない人たちなのです。