顎顔面インプラント学会:インプラント周囲炎への対応としてGLの指摘も

参考:ishiyaku.dentweb 2016年12月13日

日本顎顔面インプラント学会学術大会が12月2日、3日、東京医科歯科大学M&Dタワーで開催されました。インプラント治療の普及により、その恩恵を受ける患者が多くいるのは事実。それと同時に、以前からすればインプラント周囲炎の増加傾向にあるようです。このインプラント周囲炎に対していくつか注目する講演があるので、一部を集約してポイントを紹介します。

まずは中田秀美・東医歯大大学院医歯学総合科助教が最近の傾向と機材・システムについて講演しました。インプラント周囲炎について「細菌感染によって歯肉や歯周組織に起こる炎症です。歯肉の炎症から始まり、歯周組織にまで炎症が拡がると歯槽骨の吸収・インプラントの脱落を招きます。天然歯の歯周病と異なる点は、インプラントには歯根膜などの栄養血管が周囲にないため、抵抗力が弱く、進行しやすいという点である。急速に炎症が拡がってしまうため、重症化しやすいという特徴があります」と説明。一般的な予防についても「その原因は、プラークや歯石の中に存在する細菌であり、細菌の除去が必要であるが、100%とは現実的には無理である。定期的に歯科医院で対応すべきと考えられています。そこで、セルフメンテナンスに加えて歯科医院でのメンテナンスを受けることが必要です。普段の歯磨きに加え、定期的にプロによるクリーニングを受けることでインプラント周囲炎の効果的な予防が可能になる」と言及しました。

さらに具体的な症例を指摘し、「周囲炎に罹患してしまったインプラント歯肉溝には実際にどのような菌が存在しているのか。全顎的なプラークコントロールの良い患者に生じたインプラント周囲炎の周囲溝には骨吸収に関連するとされている細菌は認められているのか」と問いかけました。

具体的に日本で販売して3年以上経過した、Geistlich Bio-Oss/Bio-Gide(非吸収性骨再生用材料・吸収性骨再生用材料:スイス)、Perioannalyse(歯周病菌検査システム:フランス)を紹介しました。Geistlich Bio-Oss/Bio-Gideについては「適切な創傷治癒、適切な骨組織の治癒、迅速な新生血管造成を得られ、生体的相互作用が図られるもので、長期的な臨床成果を得ており、期待していきたい」と今後の可能性にも触れました。また、Perioannalyseに関しては次のように報告しました。「ポイントは1回で最大10菌種の測定が可能、最短1週間で検査結果を報告、迅速性と定量性に優れたリアルタイムPCR法を採用、高額な機器の購入は必要ありません。臨床の立場を踏まえてのシステムなので、今後の推移に注目したい」としました。

また、臨床家の松井孝道氏(松井歯科医院・宮崎市)は「インプラント周囲炎に対しての治療効果はインプラント表面の汚染状態で異なってくる。軽度ならデブライドメント、薬剤洗浄、抗菌剤投与などで対応。さらに中等度・高度なら外科的処置も必要になってくる。また、最近ではインプラント表面性状や形体にも影響してくる。そこで、β-TPCパウダーによるエア・アブレイジョン法を検証。その効果も期待したい」としました。

一方で、北條秀樹氏(草加市立病院歯科口腔外科)は、インプラント不調を主訴にした患者からの臨床検討を報告しました。「2012年1月~2016年5月までのインプラント不調の症例を分析。結果はインプラント不調は計47本/28例で、そのうちは15例は有病者。28例中21例で34本。このように28例中21例がインプラント周囲炎。ただ、インプラント埋入から本病院来院までは10.1年の時間的経緯があった。これは歯科医師や患者の経過観察の維持・重要性の自覚・モチベーションの低下が指摘できることで、このことをインプラントの長期管理の課題だと指摘できる」と報告しました。


今後の課題として、今村栄作・横浜総合病院院補佐(歯科口腔外科部長)が次のようにまとめ報告しました。「現在のインプラント周囲炎の問題点は主流となっているラフサーフェスを伴ったフィクスチャー表面の感染は非常に難治性であり、リカバリーに苦労することが多いのは臨床家なら誰しも経験しているはず」と指摘した上で「結果的には抜去せざるを得ない症例に遭遇しているはず。インプラント周囲炎は局所のみならず糖尿病や自己免疫疾患、そして低栄養状態などによる易感染性状態では全身への影響も多大で、歯科界が適切な対応を行わないと将来において社会的な問題となるかもしれない。そのためには学会主導でのインプラント周囲炎に対する治療法の確立とガイドライン(GL)などが必須になってくる」と強調しました。

奥村 勝 氏

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