アトピー性皮膚炎などの治療に使われる保湿用塗り薬の医療機関での処方が急増していることが、健康保険組合連合会(健保連)の調査で分かりました。雑誌やインターネットで「美肌になれる」などと紹介されて広まり、公的医療保険の適用により低料金で入手できることから、化粧品代わりに求める女性が増えたことが背景とみられています。
治療以外でのこうした処方は薬剤費を押し上げ、税金や保険料で賄う医療財政を圧迫します。年間約93億円が無駄に支出されている可能性があり、厚生労働省は来年4月の診療報酬改定で処方量の制限など対策を講じる方針を固めました。近く、中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)で議論を求めます。
医師から処方される保湿薬の中で特に女性に人気なのが「ヒルドイド」。軟こうやクリーム、ローションタイプがあり、50グラム1185円だが、保険適用の場合、自己負担は最大でも3割の約360円で済みます。
アトピー性皮膚炎の場合、かゆみ止めの薬などと一緒に処方されることが多いため、健保連はヒルドイド(後発医薬品を含む)が単独で処方された加入者のレセプト(診療報酬明細書)を集計しました。
2015年10月から16年9月の1年間で20~59歳を対象にした処方は、男性が3万9312件だったのに対し、女性は16万4377件と4・2倍。前年同期と比べると、女性は17・3%増えており、男性の増加率7・9%を大幅に上回りました。25~29歳では女性の増加件数が男性の33・9倍に上った。多くは病名が「皮膚の乾燥」のみで、健保連は「美容目的の使用が増えていると考えられる」と分析しています。
健保連の推計では、ヒルドイドを中心とした保湿薬の単独処方による薬剤費は、公的医療保険全体で年間約93億円。厚労省は1回の処方量の制限や、単独処方を保険適用外にすることなどを検討しています。
ヒルドイドを販売する「マルホ」(大阪市)は、「患者の自己判断での使用は副作用のリスクもあり、控えてほしい」と訴えています。
※ヒルドイド
マルホ(大阪市)が製造販売する医療用医薬品の名称で、保湿薬の一種。保湿のほか、血行を促進する作用があり、アトピー性皮膚炎ややけど、加齢や糖尿病による皮膚の乾燥などの治療に使用されます。乳幼児の場合、おむつかぶれや発疹で処方されることもあります。処方には医師の診断が必要です。後発医薬品も複数あります。