CAD/CAM接着のポイント集

CAD/CAM 冠導入の経緯とセメント選択の考え方

保険診療におけるCAD/CAM冠の重要性は日々増している。2014年の小臼歯 CAD/CAM冠の導入以降も、2016年の大臼歯への条件付き導入、そして2017年12月 には一部の製品に限定されるが、下顎第一大臼歯への CAD/CAM 冠の保険適用が開始されました ( 表 1 )。

CAD/CAM 冠の臨床結果については、破折よりも脱離について問題とされることが 多い。CAD/CAM 冠導入当初の臨床実態について評価された論文においては、6 ヶ月 間経過後の1,178個のCAD/CAM冠において、破折が2%であるのに対し脱離は9% と報告されている1)。本論文においては、CAD/CAM 冠内面へのサンドブラスト有無 とプライマー処理有無が脱離に対して統計的に影響を及ぼしたことも示されています。 上記の結果から、CAD/CAM冠内面とセメントの接着が不十分であったために CAD/CAM 冠の脱離が起こっていると考えることができます。保険診療で多く使用されて いるグラスアイオノマーセメント(レジン強化型グラスアイオノマーセメントを含む)は、 プライマーを併用する製品ではなく、CAD/CAM 冠に用いるべきではないたでしょう。 最近では、サンドブラスト処理、プライマー処理を行っても脱離することがあり、 その際にはセメントが 歯質側に残っていないとの 意 見を聞くことが多い 。この点については、セメントの象牙質に対する接着力を理解する必要があります。表2に、入江らが報告している接着力を改編して示す2)。CAD/CAM 冠ならびに象牙質への接着力から考慮すると、CAD/CAM 冠にはプライマー併用型接着性レジンセメントを用いることで、 脱離の発生を軽減できると考えられる。

静岡県浜松市 石川歯科

 

2014 年に保険適用が開始されて以降、日常臨床における重要性が増しているCAD/CAM冠修復について、セメント選択の考え方ならびに臨床手技の勘所を解説していただきました。

表 1:CAD/CAM 冠保険適用の変遷

留意事項などがございますので、適用の詳細は先生ご自身でご確認をお願いいたします。

表2:各種セメントのせん断接着力

2014 年

小臼歯への CAD/CAM 冠 保険適用が開始

2016 年

金属アレルギーを有する患者に限り、 大臼歯への保険適用が開始

2017年12月

下顎第一大臼歯への保険適用が開始

  CAD/ CAM冠 人象牙質
グラスアイオノマー セメント 1.2 MPa 4.9 MPa
自己接着性 レジンセメント 23~27 MPa 13~16 MPa
プライマー併用型 レジンセメント 4.4~38 MPa 17~24 MPa

 

 

 

 

 

リライエックスTM アルティメット レジン セメント スコッチボンドTM ユニバーサル アドヒーシブ

リライエックスTM アルティメット レジン セメントを用いたCAD/CAM冠装着

 

 

 

患者は 30 代女性。「保険でできる白い 支台歯形成後、印象採得を行い、技 歯を入れたい」との希望で来院され、 工所にて作成されたCAD/CAM冠。 CAD/CAM 冠による修復を提案しました。

支台歯を清掃後、CAD/CAM冠を試適 します。この試適時に、内面が唾液由来 の接着阻害因子で汚染されてしまいます。

重合がある程度進み、セメントが固 まってきたところで余剰セメントを 除去します。この時CAD/CAM冠内面 が硬化していない可能性を考慮し、 歯頸部の除去の際にはロールワッ テを噛ませています。

そのため、試適後にマイクロエッ チャーIIA(取り扱い:株式会社モリ ム ラ )に て サ ン ド ブ ラ ス ト を 行 い 、接着阻害因子を清掃し、また、機械的嵌合力を増強します。

エリパーTM ディープ キュア LED光重 合器にて各面20秒ずつ光照射を行 い、確実に内面のセメントを重合硬 化させます。

リライエックスTM アルティメット レジン セメントにて装着するため、支台歯、 CAD/CAM冠内面にスコッチボンドTM ユニバーサル アドヒーシブを塗布し乾燥させます。

しっかりと時間をかけて光照射した後に、咬合調整を行います。

 

 

 

スコッチボンドTM ユニバーサル アド ヒーシブの乾 燥 後、リライエックスTM アルティメット レジン セメントを CAD/CAM 冠内面に塗布します。

口腔内にCAD/CAM冠を装着します。

 

CAD/CAM冠装着における留意すべき臨床手技

筆者は日々の臨床において、1:サンドブラスト処理を CAD/CAM 冠試適後に行う、 2:光照射は高出力照射器であってもしっかり行う、ことに留意しています。 クラウンを支台歯に試適した際に付着する唾液について、唾液中の接着阻害因子 をどのように除去するべきかという研究が近年盛んに行われています。筆者はさまざま な発表を元に、試適後にチェアサイドでサンドブラストを行っている。機械的な嵌合 を得るためのサンドブラスト処理を確実に行うことにもなるため、非常に重要な臨床 ステップだと考えています。 光照射も重要なステップです。CAD/CAM冠は光を透過する材料であるが、 1.0mmのCAD/CAM冠において1/3程度まで、2.0mmのCAD/CAM冠において は1/10程度まで光が減衰することが報告されている3)。高出力LED光照射器の 登場により照射時間を短くする傾向があるが、セメントが硬化していないのに、硬化 したと思って咬合調整を始めることは避けなくてはいけません。

マイクロエッチャー IIA

 

リライエックスTM アルティメット レジン セメントを用いた CAD/CAM 冠の症例を示す。本製品は象牙質ならびに各種 CAD/CAM 冠に対して良好な接着力が報告されており2)4)、支台歯ならびにCAD/CAM冠内面に対してスコッチボンドTM ユニバーサル アド ヒーシブが使用できる。セメントとプライマーの2つの材料だけで構成されている点も、ユーザーにとって使いやすい製品である。

参考文献:

1)末瀬一彦. 保険診療に導入された「CAD/CAM冠」の初期経過に関する調査研究. 日本デジタル歯科学会誌2015:5(1):85-93 2)入江正郎,飯田祥与,丸尾幸憲,西川悟郎,皆木省吾,長岡紀幸,吉原久美子,松本卓也. 最近の合着用セメント:象牙質とCAD/CAM 用レジンブロックに対する接着強さ.接着歯学2016:34(4):141-149 3)渡部平馬,風間龍之輔,浅井哲也,石崎裕子,福島正義,興地隆史. 各種CAD/CAM用歯冠修復材料の光透過性について. 接着歯学2014:32(3):178 4)入江正郎,田仲持郎,松本

 

CAD/CAM冠の装着にトラブルを生じさせないためには、接着操作が極めて重要です。 接着前の確実なサンドブラスト処理とプライマー処理の必要性について解説します。

 

主流になりつつあるCAD/CAM冠

歯科用CAD/CAMシステムを用いたハイブリッドレジン クラウン「CAD/CAM冠」は、平成26年4月の医療保険制 度導入以来、補綴装置の製作加工法として主流になりつつ あります。それを受けて、機械的強度・色調再現性・研削性・研磨 性・耐摩耗性・光沢度の維持などに優れたCAD/CAMブロッ クが開発されました。また、高い接着性能でCAD/CAM冠の接 着に適応するリライエックスTM アルティメット レジン セメント(※1)など、より強力な接着材料も充実してきており、近年 臨床応用はますます広がっています。 しかし、CAD/CAM冠は、審美性や耐久性に優れるという 特性がある反面、本来接着しにくい素材であるという側面を 正しく認識しないといけません。構造的にはレジンであっても 特性的にはきわめてセラミックスに近いことから、適切なセメントを選定する必要があります。また接着操作は極めて重要な 臨床ステップであることを認識し、使用セメントのマニュアル に従った確実な手技が要求されます。その点、リライエックスTM アルティメットレジン セメントは、前処理として歯質側、補綴物側ともにスコッチボンドTM ユニバーサル アドヒーシブ(※2) を塗布・乾燥するだけのシンプルな術式で各種材料に強い接着力が期待でき、臨床的なメリットが大きいです。

 

金属冠とは違うCAD/CAM冠の支台歯形態

一般的にクラウンの維持力は、1.支台歯形態、2.クラウン の材質や適合性、3.接着性レジンセメントの性能や取扱いに よって決定されるが、これはCAD/CAM冠にも言えることです。支台歯形態について言えば、CAD/CAM冠と金属冠 とでは望ましい支台歯の形態が異なります。CAD/CAM冠では 特に咬合面や頬舌面で、クラウン設計時における厚みの確 保が重要です。金属冠より切削量を増やし、適切なクリア ランスが確保できるよう支台歯形成時に気をつける必要があります。MIの概念は大切だが、材料によって切削量は変えなければならなりません。クリアランスの不足により試適時の咬合負荷 が破 折の要 因ともなる 。また削り過ぎを防 ぐ には 、天 然 歯と歯髄の形状、歯軸の傾きをよく把握することが必要です。 さらに、印象の精度も重要であり、マージン部の確実な明示 も要求されます。

 

 

 

 

 

(※1)リライエックスTM アルティメット レジン セメント

(※2)スコッチボンドTM ユニバーサル アドヒーシブ

■ 全国800箇所の歯科医院を対象に行ったアンケート結果による (調査対象CAD/CAM冠 1,178個)

破折2% 不明1% (図1)CAD/CAM冠の予後状況 良好 88% 脱離

(N=1,178)

9%

全体の14%でサンドブラスト処理がされておらず、脱離したケースに至っては33%でサンドブラスト処理がされていなかった。

サンドブラスト処理なし

サンドブラスト処理なし

33%
あり

67%

(図3)脱離したCAD/CAM冠内面の サンドブラスト処理の状況(N=106)

 

 

 

 

不明1%

14% あり

85%

(※3)チェアサイドでCAD/CAM冠内面に サンドブラスト処理

(図2)全調査対象CAD/CAM冠内面の サンドブラスト処理の状況(N=1,178)

全体の33%でプライマー処理がされておらず、脱離したケースに至っては42%でプライマー処理がされていなかった。

プライマー処理なし

プライマー処理なし

42%
あり

58%

(図6)脱離したCAD/CAM冠の プライマー処理の状況(N=106)

 

 

 

 

 

(※4)プライマー処理

33% あり

67%

(図5)全調査対象CAD/CAM冠の プライマー処理の状況(N=1,178)

3M 歯科 検索

 

サンドブラスト処理とプライマー処理の重要性

接着操作が不十分な場合には、装着後の脱離や破折が生じることにも留意 す べ きです 。脱 離 の 原 因としては 、接着前処理、接着操作に問題がある場合が多く、特にサンドブラ ストとプライマーの適切な処置が行われていない症例が挙げられます。 今回全国800箇所の歯科医院を対象に1,178症例の調査 を行ったところ(図1)、脱離したCAD/CAM冠のうち33%の 症 例でサンドブラ スト処 理 をしていなかった 。こ れ は全 体の14%に比較して多く、脱離とサンドブラスト処理の有無には カイ二乗分析において有意な関係性が見られました(図2、3)。クラ ウン内面へのサンドブラスト処理の目的は、内面の清掃、機械 的な凹凸構造の付与、セラミックフィラーの露出などです。 歯科技工所でサンドブラスト処理は行われるが、その後石膏模型に挿入された状態で納品され、またチェアサイドでは試適も行われることから、クラウン内面は石膏、唾液、プラークなどで汚染されていると考えるべきです。従って、試適完了後の接着直前に、チェアサイドでサンドブラスト処理を行うことが最も効果的でしょう(※3)。サンドブラスト処理を行うことで、 CAD/CAM用コンポジットレジンブロックに対してのリライ エックスTM アルティメット レジン セメントの接着強さの向上が、図4からも認められます。 また、脱離したCAD/CAM冠のうちプライマー処理(※4) が行われなかった割合は42%でした。これも全体の33% を上回り、脱離とプライマー処理の有無にも危険率5%で関 係性が認められた(図5、6)。 CAD/CAM冠の装着にトラブルを生じさせないためには、 接着直前の確実なサンドブラスト処理とプライマー処理は極 めて重要であるといえます。

CAD/CAM冠はこれからさらに普及していくと思われます。小臼歯の全部被覆冠で実績が上がれば、大臼歯への保険適用が 視野に入る(※5)。今後ハイブリッド型コンポジットレジンの適用は拡大すると考えられることから、術者にもしっかりとした 知識とより高い技術が求められることを認識する必要があります。

(※5)この文章は2015年9月に発行されたものであり、2016年4月より金属アレルギーの場合に 限り大臼歯にも保険適用になりました。

■ CAD/CAM用
コンポジットレジンブロックと リライエックスTM アルティメット レジン セメントとの接着強さ

(Mpa) 30

25 20 15 10

5

0

出典:大阪歯科大学 歯科保存学講座 岩佐一弘先生、山本一世先生、他 第142回日本歯科保存学会2015年度春季学術大会 ご発表より抜粋

http://www.mmm.co.jp/hc/dental/

当事業部取扱製品のお問い合わせは

出典:大阪歯科大学歯科審美学室 大阪歯科大学歯科技工士専門学校 末瀬一彦先生
日本デジタル歯科学会雑誌 第5巻第1号「保険診療に導入された「CAD/CAM冠」の初期経過に関する調査研究」より抜粋

3M、ESPE、リライエックス、スコッチボンドは、3M社またはその関連会社の商標です。

はずれないCAD/CAMレジン冠の勘どころ

冨士谷 盛興 先生

FUJITANI Morioki

愛知学院大学歯学部特殊診療科 教授 愛知学院大学歯学部附属病院審美歯科診療部 部長

ポイント:
1 CAD/CAMレジン冠に適した支台歯形成を行う。
2 接着性レジンセメントを必ず使用する。
3 CAD/CAMレジン冠の接着は難しいと認識し、正しい接着処理を行う。

ハイブリッドレジンブロックによるCAD/CAMレジン冠(以下、CAD/CAM冠)が保険収載されてから2年あまり経過しましたが、 依然として、外れる、割れるといった事例が少なくありません※。今回はそれらの理由と対策について説明します。

※参考文献:末瀬一彦先生, 日本デジタル歯科学会誌, 第5巻第1号,85-94頁,2015

Point 1 CAD/CAM冠に適した支台歯形成を行う 鋭利な線角、点角による支台歯と補綴物との適合不全は、脱落や破折トラブルを招きます(図1)。

Point 2 接着性レジンセメントを必ず使用する CAD/CAMレジン冠のショルダー形態はフラットでないため、咬合圧を十分に受け止めることができません(図2)。

 

図1 CAD/CAMレジン冠に適した支台歯形成

丸みを帯びた形状

ミリングバー

OK NG

支台歯 支台歯

適合不全

 

 

 

 

 

図2 ショルダー形態に適したセメント

HJK冠

グラスアイオノマー系 セメントで合着

CAD/CAM冠

接着性レジンセメントで 支台歯とCAD/CAM冠 を一体化

咬合圧

咬合圧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Point 3 CAD/CAMレジン冠の接着は難しいと認識し、正しい接着処理を行う

  • サンドブラスト処理

試適後には唾液等による汚染が残ります。 チェアサイドでもマイクロエッチャー(写真)等での除去が必要です。

  • リン酸処理

CAD/CAM冠においては、 補綴物内面の清浄のために不可欠です。

  • シラン処理

フィラーを60%以上含有するCAD/CAM冠との接着には、 シランカップリング剤で十分かつムラの無い処理が必須です。

  • 乾燥

マイクロエッチャー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

液成分(溶剤や水分)の残留は、レジンセメントの重合や接着の阻害要因です。 また意外に見落としがちですが、シランカップリング剤の有効期限切れにも注意して下さい。

 

ワンランク上のCAD/CAM冠への接着を手に入れましょう!

 

脱離したとき、セメントはどちらについていましたか?

補綴物側にセメントがある場合▶ボンディング材の併用で歯質との接着強化 支台歯側にセメントがある場合▶接着処理ステップを再確認

被着面の特性を認識し、ボンディング材とレジンセメントを う ま く 併 用 す る こ と で 、接 着 バ ラ ン ス を 図 り ま し ょ う 。

 

CAD/CAM冠

支台歯

レジンセメント

リライエックスTM アルティメット レジン セメント での接着強度(24h+5,000xTC)3M ラボデータ

 

 

 

(MPa)60 40 20

0 CAD/CAM冠

ボンディング材

支台歯側へのボンド処理

象牙質

 

前処理は これ1本で!

光重合 + 化学重合 スコッチボンドTM ユニバーサル アドヒーシブは、リライエックスTM アルティメット レジン セメント

に接触すると、化学重合開始剤を取り込み、光の届きにくい部分は化学重合で硬化

 

 

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