参考:アピタル・森戸やすみ 2016年8月22日
離乳食 遅らせるとアレルギーにならない?
食物アレルギーを持つ子どもは今、10人に1人と言われています。私の娘のお友達にも何人かいますから、家に招く際には出すおやつに気をつけます。
次女は先日、臨海学校に行きましたが、保護者は事前にすべてのメニューが書かれたプリントをもらいました。私の台湾人の友達はそれを見て驚いていましたが、アレルギー対策だと説明しました。
家庭だけでなく、保育園や学校の対策も大変ですね。だから離乳食 を始める際に、「うちの子が食物アレルギー になってしまったらどうしよう」と心配する保護者の方が多いのです。前回に引き続き、今回は乳児期の食事についてお話しします。
「小児科医ママの大丈夫!子育て」はここから <http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/>
環境省 が行っている疫学調査 <http://www.asahi.com/topics/word/%E7%96%AB%E5%AD%A6%E8%AA%BF%E6%9F%BB.html>
「エコチル調査」では、5~6ヶ月に離乳食 を開始する保護者が85%で、8割の母親が米を6ヶ月までに食べさせていました。しかし、一般的にアレルゲン になるとされる小麦は7割、鶏卵や牛乳は8割以上の母親が、7~8ヶ月以降に与えていたことがわかりました。中でもアナフィラキシーショック を起こすことで知られているソバは88%、ピーナツは95%が、1歳を超えても食べさせていませんでした(http://www.env.go.jp/chemi/ceh/results/index.html <http://www.env.go.jp/chemi/ceh/results/index.html>)。
インターネットの記事でも、有名人のご夫婦が離乳食 のことで険悪になったという話を読んだことがあります。離乳食 を始めているのに途中で、やっぱりアレルギーが心配だから母乳だけに戻そうと動揺するお母さんと、こんなに喜んでいるから食べさせ続けるべきというお父さんとの攻防でした。また、ある歯科医の提唱する「1~2歳まで母乳だけで育てる」というトンデモ説に共感するタレントさんの話も聞いたことがあります。アレルギーにならないから、鼻呼吸を促すからというような理由らしいのですが、小児科 医の私から見ると、その医学博士である歯科医が子どもの成長発達に必要な栄養学もアレルギーについても勉強していないことがわかります。
実は、離乳食 の開始を遅らせても、特定の食物を除去しても、食物アレルギー の発症を防げないことはわかっています。日本小児アレルギー学会の食物アレルギー ガイドライン(http://www.jspaci.jp/jpgfa2012/chap11.html <http://www.jspaci.jp/jpgfa2012/chap11.html> )によると、アメリカ、ヨーロッパ、日本の各アレルギー学会でもアレルギー発症を防げるというエビデンスはないと10年前にすでに言っています。
2015年にニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンという権威ある医学誌に載った報告ですが、イギリス の研究グループが、640人の赤ちゃんを対象にピーナツアレルギーについて調べました。重症の湿疹か卵アレルギーのある生後4ヶ月から11ヶ月の乳児を2群に分け、ピーナツを食べる群、食べない群を5歳の時点で比較しました。
この研究開始時にピーナツアレルギーがなかった子ども達では、5歳時のピーナツアレルギーは、ピーナツを「避けていた群」で13.7%、「食べさせていた群」では1.9%でした。しかし、開始時にピーナツアレルギーがあった子ども達の5歳時のピーナツアレルギーは、ピーナツを「避けていた群」では35.3%なのに対し、「食べていた群」では10.6%に減っていました。アナフィラキシーショック などの重度のアレルギーでなければ、除去食にしないほうがアレルギーはむしろ減るという結果だったのです(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1414850#t=article <http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1414850#t=article> )。
<http://www.asahi.com/articles/photo/AS20160804001764.html>
外来診療をしていると「離乳食 を始める前に、心配だからアレルギーの検査をしてください」という保護者の方が来ますが、その必要はありません。理論上、どんな食材でもアレルギーになる可能性があり、検査会社で保険診療内で検査できる項目だけでも数十種類あります。すべてやるわけにはいきません。
また、血液検査 はアレルギーありという結果でも、食べて何の症状も出ないことは、乳児期によくあります。検査と症状が一致しない場合、大事なのは症状の方です。逆に検査ではアレルギーはないという結果で、再現性のある症状がある場合は、食べるのを控えたほうがいいでしょう。まずは食べてみないとわからないのです。
アレルギーが心配なものを食べさせるなら、平日の午前中にしましょう。何かあったら小児科 にかかることができるようにです。量はまず一口から。食物アレルギー は即時反応であることが多いので、通常1~2時間、遅くとも3時間以内に症状が出ます。症状は、ブツブツが出る、吐いたり下痢をしたりする、機嫌が悪くなる、息が苦しくなるなど一種類ではありません。心配な症状が出るようなら、小児科に行きましょう。何もなければ一口だけでなく、徐々に増やしていきます。
ご家族に深刻な食物アレルギー を持っている人がいる、離乳食を始めようとするお子さんの湿疹がひどい、アトピー性皮膚炎 と言われているという場合には、小児科 医に相談してください。
そういうわけで、ご家庭で親御さんが食べているものはなんでもあげてみましょう。一緒に食べられたら楽しいし、食事の用意がより負担が少なくなります。成長発達のために子どもは幅広く多彩なものを食べ、食事制限は最小限にしなくてはいけません。
◇次回は、9月5日(月)に掲載予定です。
<アピタル:小児科 <http://www.asahi.com/topics/word/%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91.html>医ママの大丈夫!子育て>
http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/ <http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/>(アピタル・森戸やすみ)
アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ)
小児科医
小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在は一般病院の小児科に勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。
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