内科的治療法の意味を考える。

3Mix法から内科的治療の意義を考える

堤 一樹/つつみ かずき
東京歯科大学卒業、南カリフォルニア大学卒業
医療法人社団ホワイトファミリー会 理事長
国際歯科学会会員
米国歯科学会会員
米国レーザー学会認定医
日本糖尿病協会登録医

「内科的治療とは、患者と医療側の治療に対するニーズのギャップを埋めるのもの」と堤一樹氏は言う。およそ20年にわたり3Mix法を実践し、そのメリット、デメリットを知る堤氏に、内科的治療をどのように実践しているか、内科的治療の意義について伺いました。

歯科の内科的治療に関心を持つ患者さんがいますが

 患者さんは生活に支障が出るような症状を抑えられるのであれば、外科的治療よりも、薬で様子を観たいと思うでしょう。根本治癒までの経過期間、症状が無ければ、しばらく様子観る、という患者さん気持ちがあります。それにやや迎合するような形で、ポケット内にペリオ用の抗生剤を使って、ホームケア指導で治癒傾向を観察するようなこともあり得ると思います。

それは歯科医師個々の判断によるものですか

 お国柄で社会風潮や、歴史観の違いでしょうか、儒教と清教徒思想。米国の歯科医師は感染根管は、根のヒビなどの予後を顧慮して、リスク回避で、すぐに根本治癒を目指し、抜歯してインプラントプランを患者さんに提案します。今は無症状でも数年後に根尖の慢性炎症が全身疾患の要因になるリスクを考慮し、早期に感染病巣を除去して根本治癒を目指すという考えです。日本では、患者さんに受け入れられる治療をすることが第一選択で、「まづは、薬を使って様子をみましょう」という歯科医師の方が優しい先生に思われたりするわけです。それが内科的治療の広がりに結びついているのではないですか。

歯科治療で用いる薬剤にはどのようなものがありますか

 ジスロマックは保険では月1回しか使えないので自費扱いになることが多いでしょう。ただし、副作用への配慮が重要で、す。患者さんの体力その他を考慮する必要があります。真菌症の可能性がある場合はファンギソンも用います。深在性の真菌症で複数の臓器が感染したまま中高年期を過ごし、老年期に一気に日和見で顕在化すると命を失うこともありますから、歯科で広く知っておきたいことです。

問題は、薬剤を使用する際に口の中の細菌判定がなく、歯周病のリスク要因になっているか菌群を特定しないことです。Pg菌グループなのか、真菌グループなのか、そうした振り分けなしで治療に入ってしまうことがほとんどです。

感染症の治療で大事なことは

 オーラルケアです。テクニックや、道具選びよりも、ケアを行うタイミングでほぼケア効果が決定します。タイミングの遅い除去ケアでは、古いバイオフィルムを相手に磨き残しが増えます。トイレの水洗のタイミングが、予防的ケアタイミングです。タワシで擦らなくても流せるです。予防ケアタイミングの日常改善動機付けが得られないまま、テクニック指導だけで、抗菌剤で、一時的に徐菌しても、生活習慣に磨き残しの起きない予防ケアタイミングが定着していなければ、すぐに古いバイオフィルムが復活するのは明らかです。内科的治療で大事なことは、薬剤の使用をやめた後も口腔内の良い状態を維持できるモチベーション、患者さんの意識改革に根付く指導が伴っていることです。

現在行っている3Mix法について解説を

 菌を同定しないまま治療に入るという意味では3Mix法も同様ですが、

3Mix法は異なる3種類の薬剤を用いることによって広いスペクトラムで殺菌しようという考え方です。当院では2000年前後から3Mixを感染歯質や感染根管に使っており、殺菌除菌の治療成績は良いです。実際には3Mixにクレオドン(ユージノール樹脂油)やテラコート抗生ジェル剤を配合しています。鎮痛、鎮静効果があるほか、クレオドンによる組織内へ3Mixの拡散浸透を促すことがねらいです。

3Mix法を行うメリットは

 薬功持続性があるので通常であれば根管貼薬の交換頻度が1週間から10日ごとであるのに対し、およそ4週間ごとの交換が可能になるので患者さんの通院負担も少ないです。根管治療中の歯は全て3M社のプロテンプ4のクラウンにして、仮封鎖はフローCRを用いますから、仮封鎖の脱離や、歯冠破損はありません。しっかり封鎖でき、隔壁代わりでラバーダムも安心して使えます。エンドの治療では、消毒した後すぐに根充して経過をみる方もいますが、それは今でも自信がありません…。しっかり3Mixを根管壁内部の象牙質細管まで浸透させ、確実に根尖病巣の治癒固定状態を確認したいということで、プロテンプ4の仮クラウンで、オーラルケア指導をしながら経過を診てCT精査をします。エンドを保険で行う場合は時間をかけたくないという事情もあると思いますが、根尖外までしっかり殺菌し、固定しても肉芽の存在で将来再発するリスクがあると思います。

薬剤を用いるのは即効性への期待というよりも、長期的に考えてより慎重に治療をステップアップして、進めることが目的で、3Mixを使う以前に比べてゼロではありませんが、再根治はなくなりました。

一方、虫歯治療の場合、ユージノールセメントを詰めたような古い処置歯を開けてみると、軟らかいはずだった感染歯質が固定状態で長期間経つと歯質が硬くなっています。当院では深いう蝕部位に3Mixを貼薬して仮歯(プロテンプ4)でカバークラウンの初期修復を入れ4週間で神経症状がなければ、数ヶ月から1年の間で、オーラルケアの予防指導を行い、歯周ポケットが健康に安定してから、再形成し直し最終修復物を入れます。その際の感染軟化象牙質はエキスカでチェックすると硬化して。再石灰化など生体の治癒を期待するという意味で有効なのではないかと感じています。なお仮歯を入れている期間にホームケアの方法を指導し、健康な歯肉のコントロールの仕方を身に付けていただくことで、最終修復の型採り時は、圧排糸での出血もなく、健康な無菌的歯周ポケットで精密印象ができます。

内科的治療の意義

まず必要なことは、薬で痛みや腫れが抑えられても、治っているわけではないと患者さんに自覚していただくことです。いきなり外科処置をするのではなく、レントゲンその他で口腔内の状態を知っていただき、症状を抑えるために自己治癒での改善の補助に薬を使いましょうという形で進めること。加えて継続的にホームケアが歯科衛生士の管理下にあることが、内科的治療するためには必要です。その後に外科処置の成功率も考慮しながら、衛生的に改善した口腔内での外科処置のプランニングを建て、患者さんの動機付けを誘導します。

現在使用されている薬剤は、一定の効果があることは間違いありませんが、歯科治療のゴールにおいてアマチュアの患者さんのニーズと、プロの歯科医師のニーズにはギャップがあります。歯科医師からすればすぐに抜歯することが最善と考えても、急性症状が出ていなかったり、経済的な理由等で患者さんがすぐに処置を望まないような時、どちらの考えが正しいかということではなく、お互いのニーズの間を埋めるという意味で内科的治療と言うのは有効と言えるでしょう。あくまで経過を見るためという認識を患者さんが持った上で内科的治療を選択することはありだと思います。ただし、抗生剤を濫用すれば耐性菌の問題もありますから最終的には医療側のリードできる判断が必要です。

2016年8月5日
ホワイトファミリー理事長  堤 一樹

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