参考:「American Journal of Tropical Medicine」2月12日号
ヒト感染例の報告は初の「テラジア・グローサ」
鏡で自分の顔を見たら、眼の表面を半透明の小さな虫が這っていた―。
想像したくないかもしれませんが、これは米オレゴン州の26歳の女性が実際に経験したことです。しかも、見つかったのはこの1匹だけではなく、14匹もいたというのです。この症例について報告書をまとめた米疾病対策センター(CDC)寄生虫病・マラリア対策部門のRichard Bradbury氏によると、この虫はウシに感染する寄生虫として知られており、ヒトでの感染例が報告されたのはこれが初めてだといいます。
報告書によると、女性は数日間にわたって左眼に違和感があり、異物に気付いて取り出したところ、それは0.5インチ(約1.2cm)足らずの長さの小さな虫だったといいます。その後、女性は地元の医師に2匹取り出してもらい、その翌日には検眼士に3匹取り出してもらいました。その後も何匹か見つかり、20日間に女性の左眼から取り出された虫は全部で14匹に達しました。
虫はテラジア・グローサと呼ばれる寄生虫でした。テラジア・グローサはこれまでウシの眼に寄生すると考えられており、この20年間でヒトへの感染例の報告はありませんでした。この虫はハエを介して感染し、涙液を栄養源として眼や瞼の裏側に寄生するとされています。感染によって眼の炎症が引き起こされることはありますが、永続的な傷害の原因となることはまれだといいます。
Bradbury氏らは、女性がこの寄生虫に感染したのは牧場が多いオレゴン州のゴールドビーチで乗馬を楽しんだ時ではないかと推測しています。なお、14匹の寄生虫を取り出した後、女性の眼に異常は残っていないといいます。
同氏らによると、女性の眼から見つかったテラジア・グローサのようなテラジア属の線虫の眼への感染例は、欧州やアジアでは160件の報告がありますが、米国では11件と少なく、極めてまれだといいます。
専門家の一人で米メイヨー・クリニックのAudrey Schuetz氏は、こうした寄生虫の感染が心配であれば「顔にハエがとまらないようにネット付きの帽子をかぶることを勧める」と助言しています。