参考:2016年6月9日 (木)配信毎日新聞社
日本食物繊維学会副理事長・青江誠一郎さんに聞く
いま、食と健康の世界で「大麦」が熱い視線を浴びています。食物繊維に富むのが、その理由のひとつです。白米に混ぜて食べるだけで食後の血糖値の上昇を抑えるなどさまざまな有用性が分かってきました。腸内環境の改善にも役立ちます。大麦と食物繊維の働きについて、日本食物繊維学会副理事長の青江誠一郎・大妻女子大家政学部教授に聞きました。【小島正美】
◇食後血糖値の上昇抑制/コレステロールを正常化
◇内臓脂肪の低下/次の食事まで効果持続
日本人の食物繊維の摂取量は過去60年間で劇的に減りました。厚生労働省がまとめた「日本人の食事摂取基準」(2015年版)によると、1日あたりの食物繊維の望ましい量は、成人男性が20グラム以上、成人女性が18グラム以上ですが、現実には男性は約13~14グラム、女性は約12~13グラムしか摂取していません。特に若い世代で少ないです。1950年代には男女とも平均して20グラム以上も摂取していました。
食物繊維が大きく減った要因について、青江さんは「米や大麦などの穀物を以前ほど食べなくなったからだ」とみます。
日本人にとって、いまも白米から摂取する食物繊維の比率は高いですが、白米に含まれる食物繊維は100グラムあたり約0・5グラムと少ないです。一方、大麦に含まれる食物繊維は100グラムあたり約10グラムとかなり多いです。しかも大麦の場合、食物繊維の一種のβ(ベータ)―グルカンが可食部分の胚乳に分布するため、押し麦にしても米粒のような形に加工しても、その食物繊維量はほとんど減らない利点があります。
望ましい食物繊維の量を達成するには、1日あたり、あと6グラム程度の食物繊維を取ればよいです。青江さんは「食物繊維は野菜や果物、大豆、海藻類からも摂取できるが、大麦なら、毎日50グラム程度を食べるだけで、5グラム程度は満たすことができる」と手軽に実践しやすい大麦を勧めます。
大麦に含まれるのは、主に水溶性食物繊維のβ―グルカン(糖が多数結合した多糖類)。これまでの内外の研究報告によると、水溶性食物繊維にはいくつかの有益な働きがあります。
(1)糖質の吸収を緩やかにして、食後血糖値の急激な上昇を抑える(2)血中コレステロール濃度が高めの人では、悪玉コレステロール(LDL)を低下させるなどコレステロール濃度を正常化させる(3)内臓脂肪の蓄積を抑える(4)腸内にいるビフィズス菌など善玉細菌のえさになり、腸内環境を改善する、などです。
青江さんらが行った人の試験では、2パックの大麦ごはん(白米と大麦が半々に混ざったパック。β―グルカンの含有量は1パックあたり3・5グラム)を12週間毎日食べ続けたところ、LDLコレステロール値が下がるなどの効果が見られました。通常は、1日あたり3グラム程度のβ―グルカン(茶碗半分程度の大麦)の摂取で効果が得られるといいます。肥満の指標となる体格指数(BMI)が25以上の肥満の人でも、同程度の量で内臓脂肪面積の低下効果が得られます。
大麦の効果は欧米でも認められています。米国では「血中コレステロールの低下による冠動脈疾患のリスク低減」という健康強調表示が米国食品医薬品局によって認められています。欧州食品安全期間(EFSA)も「食後血糖値の上昇抑制」「血中コレステロール低下による心臓疾患リスクの低減」「排便の促進」の表示を認めています。
日本では欧米のような疾病に関する強調表示は認められていませんが、昨年4月に始まった機能性表示食品制度で、大麦の効果として「コレステロールを低下させる」「腸内環境を改善する」「糖質の吸収を抑える」といった表示が可能になりました。ただし、この表示は国が審査して許可したものではなく、一定の科学的な根拠を基に事業者が自己責任で表示したものです。
大麦の効果でおもしろいのは「セカンドミール効果」(セカンドは2回目、ミールは食事の意味)です。これは、例えば朝食で大麦を摂取すると、昼食のときにも血糖値の上昇抑制などの効果が発揮されるというものです。夜に大麦を食べれば、その効果は翌朝も表れます。
青江さん自身は、朝に大麦のシリアル食品、夜に麦ご飯(大麦を30~50%混ぜたもの)を食べています。確かに朝と夜に大麦を食べれば理想的です。
もうひとつ大麦の特色があります。腸内環境の改善です。水溶性食物繊維はビフィズス菌のような善玉細菌のえさになり、腸内細菌のバランスがよくなります。最近の研究で腸内環境の悪化は便秘や肥満だけでなく、うつや自閉症、がんなど脳や免疫の働きにも影響することが分かってきました。腸内環境の改善は病気を起こしにく体をつくるわけです。
青江さんは「腸と脳はつながっている。腸内環境を整えることは、ミネラルの吸収をよくしたり、ストレスの防止にもなったりする。学校給食にもぜひ大麦を取り入れてほしいですね」と語ります。
最近、ごはんやパンなどの糖質を制限する糖質制限食がはやっています。青江さんは「極端に糖質を制限すると、腸内細菌のえさ不足になり、腸内環境が悪化する可能性がある」と食物繊維の豊富な穀類をしっかりと取ることが大切だと強調しています。
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◇主な食品に含まれる食物繊維量(100グラムあたりのグラム数)
品目 | 水溶性 | 不溶性 | 総量 |
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大麦(押し麦) | 6.0 | 3.6 | 9.6 |
食パン | 0.4 | 1.9 | 2.3 |
うどん(ゆで) | 0.2 | 0.6 | 0.8 |
玄米 | 0.7 | 2.3 | 3.0 |
白米 | 0 | 0.5 | 0.5 |
そば(ゆで) | 0.5 | 1.5 | 2.0 |
キャベツ | 0.4 | 1.4 | 1.8 |
ゴボウ | 2.3 | 3.4 | 5.7 |
ダイコン | 0.5 | 0.8 | 1.3 |
トマト | 0.3 | 0.7 | 1.0 |
ナス | 0.3 | 1.9 | 2.2 |
ニンジン | 0.7 | 2.1 | 2.8 |
青ピーマン | 0.6 | 1.7 | 2.3 |
レタス | 0.1 | 1.0 | 1.1 |
シイタケ | 0.4 | 3.8 | 4.2 |
エリンギ | 0.2 | 3.2 | 3.4 |
(日本食品標準成分表2015年版から、野菜はいずれも生で)
へ~凄い!!!!大麦若葉ではないが、これが玄米の6倍の水溶性食物繊維。2倍の不溶性繊維がある!