東京パラリンピック代表に内定している陸上女子走り幅跳びの中西麻耶さん(35)(阪急交通社)は4月のジャパンパラ競技大会で優勝し、順調な調整ぶりをうかがわせました。
事故で右脚を失い、義足を使う中西さんが、好調を維持するために重視しているのは歯のケアです。
2008年、12年と2大会連続でパラリンピックに出場したが、その後、記録が伸び悩み、「行き詰まりを感じていた」。突破口を模索する中で、知人の紹介で地元の大分県内のスポーツ歯科を受診したのが、転機となりました。
歯の状態やかみ合わせが悪いと、体のバランスが崩れ、パフォーマンスに悪影響がでることがあります。歯のケアやマウスガード作製によるけがの予防などで、アスリートを支援するのがスポーツ歯科です。
中西さんは15年4月、認定医の近藤剛史さんの診察を受けました。競技で歯を食いしばるためか、虫歯治療を受けた後の奥歯のかぶせ物が大きくすり減っていて、かみ合わせが悪くなっていました。そこで、かみ合わせを安定させるため、かぶせ物を外して仮歯を装着。翌日の練習で体の軸がぶれずフォームが安定するのを実感しました。「スポーツ歯科、すごい」。思わず近藤さんに電話をかけ、感激を伝えました。
実は、トップアスリートは一般人よりも歯に課題を抱えるケースが多いのです。
国立スポーツ科学センターの歯科衛生士、豊島由佳子さんらが、16年リオデジャネイロ五輪の代表候補選手を対象に行った調査では、治療していない虫歯が1人当たり1.85本、治療済みは7.61本ありました。国の歯科疾患実態調査(16年)の15~29歳の平均と比べるといずれも「選手の方が多く、未治療の虫歯は2.5倍に及んだ。
東京医科歯科大准教授の上野俊明さんは、
①食事量が多い②練習や遠征で治療の継続が難しい
などの影響を指摘。
「虫歯治療やかみ合わせの改善、マウスガード装着は、競技の成績にも影響する可能性があり、定期的に歯科検診や診察を受けることが重要だ」と強調しています。
中西さんは、歯の治療後、競技用のマウスガードもカスタムメイド(特別注文)で作った。「着けると、体の中心線を探しやすくなった」。体のバランスが安定し、記録が向上。16年リオ大会で4位に入賞しました。
「以前は競技のことばかり考え、虫歯ができても我慢できれば放置していた。練習や義足作製の優先順位が高く、歯科は低かった」と中西さん。近藤さんは「中西選手の跳躍と笑顔で、日本、世界を明るくしてほしい」と、夢の大舞台ヘ向けてエールを送っています。