参考:Quora
池上 良, ウイルス学を専攻
回答日時:7月21日
それ、去年の夏頃に盛んに質問に揚がってきていた話題ですが、まだそこで引っかかってる人がいるとは(^-^*)
結論から言いますと、「PCR検査陽性」はほぼ「感染」と同義です。
まず、ウイルスが死滅するというのは、具体的にはウイルスの外殻蛋白やエンベロープが破壊されて細胞に”付着”できなくなった状態を指しますが、その時ウイルスの遺伝子は速やかに分解されています。従ってPCRで検出などできません。ましてコロナはエンベロープを有するRNAウイルスですから、細胞外では最も破壊されやすく不安定な部類に属します。
そしてウイルス遺伝子が1~2個あれば検出可能、というのは本当ですが、それはPCRをスタートする検体(テンプレート、と呼ぶことが多い)の中に1~2個あればという意味です。
粘膜をこそいだ綿棒に1~2個付着していれば、という意味では決してありません。
粘膜をこそいだ綿棒からテンプレートになるまで、測定などできませんし無意味なのでやろうとする人もいませんが、個数ベースだとおそらく数千から数万分の1以下になるまでのロスがあります。
また、鼻腔粘膜を綿棒でこそいで採材するとき、これは「粘膜表面の細胞に付着しているウイルスを採取している」のではありません。
インフルの検査でもそうですが、綿棒による採取のマニュアルでは「強くこそげ」と必ず書かれています。
これは綿棒で「粘膜細胞をこそいで採取している」のです。
1個の感染細胞の中にはコピーされたウイルス遺伝子が何万とありますから。
そして「強くこそいで採取しないと、感染者でも陰性になることがある」とも書かれています。
つまり、PCR検査の感度なんて、そんなものなのです。
1個の感染細胞の表面には数千個のウイルス粒子が細胞から出芽しているはずで、綿棒で軽く擦っただけでも数万個のウイルス粒子が付着してくるはずですが、それでも確実に検出できるとは限らない、のです。
(最も採取した時点で9割くらいは既に死滅しているでしょうが)
さらに。
「感染には至らなかったウイルス粒子の残骸を検出する可能性がある」という意見への反論ですが、まあここまで述べたことでもそんな可能性はほとんどない、ということがお分かりでしょうが、さらにもうひとつ。
ウイルスに暴露(ウイルスを含む飛沫を吸引)してから感染が成立するまでの時間は、およそ30分前後と言われています。
これは要するに、粘膜表面のウイルスが全滅するまでの時間です。
粘膜表面というのは、ウイルスにとっては溶鉱炉に投げ込まれたも同然の過酷な環境です。
粘膜から分泌される粘液には強力な殺ウイルス効果がありますし、食細胞や細菌もうようよいて片っ端からウイルスを食っていきます。
つまり、全滅するまでの30分以内に、細胞内に侵入できなければ「感染が成立しなかった」ということになるわけです。
そして先に述べたとおり、全滅したらもはやRNA(ウイルス遺伝子)などそこには存在しません。
ということはつまり、ウイルスに暴露して30分以内に採材したのなら、「感染が成立しなかったウイルスの遺伝子」を検出できる可能性がないわけではない、ということです。
私はそんなものを検出できるとはまったく考えていませんが。
というわけで、結論をもう一度述べると、
>ウイルスが数個でも、死滅したウイルスが付着し、感染まで至らなくとも陽性反応となりますが
ということを主張する「専門家」がいれば、その人は頭でPCRを理解したつもりになってるだけで実践を経験していない人、と受け取ってまず間違いはないです。