SARS-CoV-2は、ウイルスのスパイク(S)蛋白であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)2への結合とTMPRSS2によるS蛋白のプライミングにより細胞に侵入する。そのため、TMPRSS2を阻害すれば、SARS-CoV-2感染を阻害または軽減する可能性がある。一方、TMPRSS2はアンドロゲン制御遺伝子であり、第1世代もしくは第2世代のADTはTMPRSS2レベルを低下させる。そこで著者らは、ADTが前立腺がん患者をSARS-CoV-2感染から保護するという仮説を立てた。本研究では、ヴェネト州の68病院から2020年4月1日時点のSARS-CoV-2陽性者9,280例(男性4,532例)のデータを収集し、性別、入院、ICU入室、死亡、がん診断、前立腺がん診断、ADTのパラメータを用いて検討した。
主な結果は以下のとおり。
・男性は女性に比べ、より重症で入院が多く臨床転帰が悪かった。
・ヴェネト州の男性の人口(240万人)でSARS-CoV-2陽性率を計算すると、全体で0.2%、がん患者で0.3%であった。
・SARS-CoV-2陽性者数は、ADTを受けている前立腺がん患者に対して、受けていなかった患者のオッズ比は4.05(95%CI:1.55~10.59、p=0.0043)で、ADTを受けている患者では感染リスクが有意に低かった。また、他の種類のがん患者のオッズ比は4.86(95%CI:1.88~12.56、p=0.0011)で、より大きな差が見られた。
(ケアネット 金沢 浩子)
男性ホルモンが関与か=新型コロナ感染、症状悪化―前立腺がん患者調査・イタリア
- [公開日]2020.05.11
- [最終更新日]2020.05.11
新型コロナウイルスの感染や症状悪化には男性ホルモン(アンドロゲン)が関与しており、前立腺がん患者に行う「アンドロゲン遮断療法(ADT)」が感染予防や治療に役立つ可能性があると、イタリア・パドバ大などの研究チームが7日発表した。
新型コロナ感染対策
まだまだ予断を許さないコロナですが、以前、コロナ感染対策でカモスタットという膵炎の薬が感染予防に役立つ可能性を記載しました。その後もいろいろな研究結果が出され、その中で興味深いものをピックアップしてみました。一つはイタリアの研究者が論文で発表した、抗アンドロゲン薬によるコロナ感染予防の話です。抗アンドロゲン薬は主に前立腺がんの治療に使用される薬物ですが、いわゆる男性ホルモンを抑えることにより、前立腺がんの進行を遅らせる作用があります。この薬で治療していた男性患者さんはしていない男性患者さんと比較して、罹患率や重症化率が低いという結果がでたのです。抗アンドロゲン薬はコロナウィルスが細胞内に侵入する時に必要なTMPRSS2という酵素の発現を減らすことにより感染を抑えるのではないかと考えられています。すなわちアンドロゲンの量を抑えるという理屈であれば、前立腺肥大症の治療薬で男性ホルモンを減らすタイプの薬がもしかしたら有効かもしれません。もう一つは、日本の研究者が見出したのですが、セファランチンという脱毛症や白血球減少症の治療に使用される薬で、コロナウィルスが細胞と付着する際に必要なスパイクタンパクに先に付着することにより、ウィルスが細胞に付かない、つまり感染を起こさせないというメカニズムが考えられています。これらの薬物は保険適応外ですが、既存の疾患に使われている薬なので、それらの安全性や副作用は分かっています。基礎疾患のある方や高齢の方には、まずコロナに罹らないということが大事なので、このような薬の予防効果というものに期待したいものです。
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喫煙と新型コロナウィルス感染症
喫煙と新型コロナウィルス感染症リスクとの関連性は、まだエビデンスが少ないこともあり、結論付けることは時期尚早と思われますが、現在までにどのように議論されているか調べてみました。中国で1099人という大規模な患者さんを対象にした研究によりますと、新型コロナウィルス感染症が重症化した患者さんの割合は非喫煙者では14%であるのに対し、喫煙者では24%と1.7倍高いデータが示されました。また、同じく中国の武漢市の医療機関からの報告によりますと、喫煙歴のある人とない人では重症化するオッズ比が14.285、すなわち前者が約14倍重症化するリスクがあるという結果でした。実際、たばこを吸っていた患者さんが肺の手術で切除された肺の組織を用いた研究では、肺胞細胞に新型コロナウィルスが付きやすくなるACE2受容体タンパクが多数発現していることが確認されました。喫煙者は新型コロナウィルスに罹りやすいことが示唆されたのです。これらの結果を踏まえ、日本禁煙学会は禁煙することで感染のリスクや重症化のリスクは低減し、やがて非喫煙者と同等になるとコメントしています。今からでも遅くありませんので、早急に禁煙治療をすることを勧めます。